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日本のホスピスへの遠い道[プラタナス]

No.4684 (2014年02月01日発行) P.3

二ノ坂保喜 (にのさかクリニック院長)

登録日: 2014-02-01

最終更新日: 2017-09-21

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がん対策基本法が生まれ、がん対策推進基本計画が策定され、がんに対する総合的かつ計画的な対策が実行されるようになった。がんによる死亡の減少、療養生活の質の向上などを目標に、各県で実行に移されている。その中で、緩和ケア病棟は、がん末期患者に対する緩和ケアを行う場所として定着してきている。

果たして、それでいいのだろうか。身体的、精神的、社会的、そしてスピリチュアルな苦痛は、がん患者だけのものだろうか。死にゆく、あるいは苦しい状況に置かれたすべての人が感じるものではないだろうか。

現代ホスピスの出発点である英国ロンドンのセント・クリストファー・ホスピスでは、設立の当初から、がん患者と同時に神経難病の患者を受け入れてきた。知性と精神は保たれながら肉体が弱っていく病気の人も、末期がんと同様に不治であり、身体的、精神的、社会的、霊的な苦痛を抱えており、ホスピスへの受け入れを拒否する論理的理由がないこと、またがん患者およびケアをする者にとって、神経難病の患者から学ぶべきものがあるという視点だったのだろう。

その後の発展は周知の通りで、欧米ではすでに緩和ケアの対象はがんのみではなく、神経難病、認知症、高齢者、各種臓器不全、そして小児の重症患者へと広がっている。

もうひとつの疑問は、緩和ケアの「場」の問題だ。我が国の緩和ケアは、緩和ケア病棟、拠点病院での緩和ケアチーム、それに在宅で行われているが、在宅部門の進展が少なく、相互の有機的な連携が少ないという意味で、非常にいびつな発展を遂げつつある。緩和ケア病棟が全国で250カ所に達しても、そこから在宅への広がりは見られず、在宅緩和ケアをサポートする病棟の動きはほとんどない。

筆者は20年来、在宅ホスピスに関わってきて、福岡市内でも着実に在宅ホスピスに関わる開業医が増えてきているが、まだまだという感を拭い切れない。病棟、緩和ケアチーム、在宅、それぞれの特徴を生かし、相互に支え合い、交流し合うホスピスケアのトライアングルの形成が必要だと思う。

日本のこれからのホスピスのあり方を考える上で参考となる論文、単行本、サイトを以下に紹介する。
・加藤恒夫:イギリスにおける終末期ケアの歴史と現状─日本への教訓(海外社会保障研究 Autumn 2009 No.168)
・岡村昭彦『定本 ホスピスへの遠い道』(春秋社、1999)
・ehospice(http://www.ehospice.com/)

にのさかクリニック院長 二ノ坂保喜(にのさか やすよし)

1950年長崎県生まれ。77年長崎大卒。長崎大学病院、大阪府立病院等を経て83年医療法人青州会病院院長、88年医療法人福西会川浪病院副院長。96年より現職。「日本ホスピス在宅ケア研究会」理事。

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