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【一週一話】経頸静脈肝内門脈大循環短絡術(TIPS)の実際

No.4688 (2014年03月01日発行) P.54

西田典史 (大阪市立大学大学院医学研究科放射線医学講師)

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-09-11

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TIPSとは

経皮的にカテーテルを用いて,肝臓内の門脈と肝静脈の間に短絡路を作成する治療法である。短絡路を介して門脈血を大循環へと流出させることによって門脈圧を低下させ,門脈圧亢進症に起因する難治性肝性胸腹水(図1)や難治性食道静脈瘤などに対して有効である。しかし一方で,肝機能,腎機能不良症例では術後に早期死亡を起こす危険性が高いため,適応症例の選択は重要である。

歴史

1969年にRöschらがTIPS(transjugular intrahepatic portosystemic shunt)の概念を提唱し動物実験を行ったのが始まりで,1988年にRichterらが世界で初めて臨床応用した。わが国では1992年に山田らが報告し,現在は先進医療注1)として施行されている。

適応と禁忌

治療適応は,利尿薬,アルブミン投与,塩分摂取制限などによっても効果がなく,穿刺排液を必要とする難治性肝性胸腹水,内視鏡的治療や薬物治療にても出血を繰り返す難治性食道静脈瘤,門脈圧亢進症性胃腸症,Budd–Chiari症候群などである。
禁忌は重症肝性脳症,高度の肺高血圧症,うっ血性心不全,びまん性門脈血栓症,TIPS穿刺経路に腫瘍や嚢胞が存在,血清総ビリルビン高値(3.0mg/dL以上),血清クレアチニン高値(2.0mg/dL以上),MELD score・MELD–Na score注2)高値などである。

手技

局所麻酔後に右内頸静脈からSeldinger法にて12Frシースを挿入し,X線透視下に穿刺セット(Rösch–Uchida Transjugular Liver Access Set:Cook Medical社製)を右肝静脈に挿入する。続いてセット内の金属カニュラを反時計回りに約90度回転させ,解剖学的に右肝静脈の腹側を走行する門脈右枝に向けて穿刺針を肝実質内に進める。逆血やテストインジェクションにて門脈が穿刺されたことを確認後,ガイドワイヤー,経皮的血管形成術(percutaneous transluminal angioplasty;PTA)用バルーンカテーテルを門脈内に挿入し,バルーンを拡張させて肝静脈と門脈の間に短絡路を作成する。最後に短絡路に金属ステントを挿入・留置する(図2)。手技時間は約2〜3時間である。



肝静脈から門脈への穿刺がこの手技の最も難しい部分であるが,術前の造影3D–CT画像による血管解剖の把握,術中の肝動脈内ガイドワイヤー挿入によるグリソン鞘の位置の把握,正面・側面の同時透視を行うことで,通常1〜5回の手技で門脈への穿刺が達成される。

成績

手技的成功率は90%以上である。難治性腹水に対する有効率は51〜84%で,腹水穿刺排液術と比較して腹水の再貯留を有意に低下させ,患者のQOL改善を図ることができる。生存率の改善については未だ証明されていないが,最近の報告では腹水穿刺と比較して予後を延長するものが散見される。難治性食道静脈瘤に対しては術後の再出血率は9〜24%で,内視鏡的治療と比較して有意に低いと報告されている。合併症は,術中においては腹腔内出血や胆道出血など穿刺に伴うものがあるが,その頻度は低い。術後においては肝性脳症が23〜61%に出現するが,大部分は内科的治療にてコントロール可能である。短絡路の狭窄・閉塞に対しては,PTA用バルーンカテーテルによる血管拡張やステントを追加留置することで対処可能である。

術後肝不全の進行による早期死亡は予測しがたい問題であったが,Mayo Clinicによって開発されたMELD score,MELD–Na scoreはTIPS後の短期予後予測の指標として有用で,TIPS後の3カ月生存率は,MELD score18未満では84.9%,18以上では54.6%と報告されている。当院においてもMELD score18未満を基本的な適応症例とし,さらに最近はMELD–Na scoreもその指標に用いている。当院のMELD–Na score15以下の症例では,TIPS後3カ月未満の早期死亡は経験していない。

TIPSは,門脈圧亢進症に起因する難治性肝性胸腹水や難治性食道静脈瘤などに対して有効であり,適応症例を選択することにより安全に施行することが可能であると考える。

注1)先進医療:TIPSは先進医療Aに分類され,大阪市大以外の実施施設は,金沢大,日本医大,昭和大,千葉大である(http://www.mhlw.go. jp/topics/bukyoku/isei/sensiniryo/kikan 02.html)。当院における自己負担金は,1回につき53万6100円である。

注2)MELD(the model for end–stage liver disease)score・MELD–Na score:MELD=9.57×loge(creatinine)+3.78×loge(total bilirubin)+11.2×loge(PT–INR)+6.43,MELD−Na=[MELD]−Na−[0.025×MELD×(140−Na)]+140で,“MELD–Na”にて検索し,Mayo Clinicのサイトにおいて算出することができる。

○参考文献

・栗林幸夫, 他 編:IVRマニュアル. 第2版. 医学書院, 2011.

・Ferral H, et al:J Vasc Interv Radiol. 2002; 13 (11):1103-8.

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