インフルエンザワクチンは,完全な感染阻止はできないものの,発症と重症化の予防に一定の効果があるため,毎年の接種が勧められている。このワクチンはワクチン株ウイルスを孵化鶏卵で培養して製造することより微量の卵白アルブミンが混入する可能性があることから,鶏卵アレルギー患者は接種要注意者とされている。しかし,鶏卵アレルギーがあっても安全にインフルエンザワクチンを接種できるとの報告は少なくない。
わが国では2011年12月にインフルエンザワクチン接種後のアナフィラキシーの発現頻度が通常の5倍程度まで増加した。このときに症例を集積して調査したところ,やはりアナフィラキシーは鶏卵アレルギーとは無関係で,原因はワクチン成分であるインフルエンザHA抗原に対する特異的IgE抗体であることが明らかとなった1)。一方,副反応を起こしたワクチンには保存剤としてフェノキシエタノールが含まれており,複合的に反応が増強した可能性が考えられたため,翌年より保存剤は変更され,その後は平年並みの発生率となった。
ワクチンアナフィラキシーのリスク因子はまだ不明である。必要なことは,通常100万接種に1回と稀ながらも,アナフィラキシーは起こりうることを意識して,アドレナリン筋注など日頃の備えをすること,そして,鶏卵アレルギーだからと無用の接種回避はしないことである。
【文献】
1) Nagao M, et al:J Allergy Clin Immunol. 2016; 137(3):861-7.
【解説】
長尾みづほ 国立病院機構三重病院アレルギーセンター/臨床研究部室長