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線維筋痛症─25症例の初期臨床像とその診断[学術論文]

No.4852 (2017年04月22日発行) P.43

柏木平八郎 (筑波大学名誉教授/筑波記念病院顧問/筑波総合クリニックリウマチ・アレルギー科)

登録日: 2017-04-24

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  • 2010年の米国リウマチ学会(ACR)による線維筋痛症(FM)の予備診断基準を満たす25症例について,患者背景,臨床像および診断基準適用の成績を精査した。患者は働き盛りの中年女性に多く,発症前に高率に家庭問題や職業上のストレスを抱え,体幹・四肢に広く分布する慢性疼痛を訴える。発症後,受診までに平均2年余りを費やし,各種医療機関を巡り,諸検査が繰り返される傾向にある。FMはわが国でも増加が予想されるため,FMに関する正しい知識の普及や受診態勢の早急な充実が望まれる。

    1. 線維筋痛症(FM)患者急増の兆し

    線維筋痛症(fibromyalgia:FM)は,全身性の疼痛を主徴とする症候群である1)。患者は中年女性に多く,慢性の痛みやしびれに加えて強い疲労感やめまいなどを伴うため家庭あるいは職場における苦痛は大きく,社会的にもネガティブな影響をもたらす2)3)。原因は不明であるが,中枢性の痛覚過敏,脳内痛覚領域と自律神経領域を結ぶネットワークの機能障害,下行性痛覚経路の異常などが関与していると考えられている4)
    FMは比較的新しい疾患で,わが国では1980年代から散発的に症例報告がみられているが5)6),1990年に米国リウマチ学会(ACR)分類基準7),2010年にACR予備診断基準(以下,ACR診断基準)8)が公表されて以降,世界各国で患者数は急増した。わが国も例外ではなく,Nakamuraら9)が2011年に行ったインターネットでの疫学的調査によれば,わが国におけるFMの有病率は2.1%であるという。これは,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の有病率0.5~1.0%の2倍強である。一方で,その認知度はまだ低く,治療も一筋縄にはいかない。特に,基本とされる認知行動療法はほとんど実践されていない。その結果,患者は専門医を求めて各種医療機関を巡っているのが現状である。
    筆者は大学の附属病院に勤務していた1980年代から,リウマチ内科外来においてFM患者を診る機会があった。定年退職後,勤務している民間総合病院において外来を訪れるFM患者が急増しつつあることを憂慮している。以上の背景をふまえ,本稿では筆者が経験したFMの25症例について,その初期臨床像を明らかにし,2010年のACR診断基準を適用した成績と併せて報告する。
    FMの治療と予後については紙面の都合上,今回は割愛したが,機会を改めて報告したいと考えている。

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