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(27) 放射線腫瘍学[特集:臨床医学の展望]

No.4740 (2015年02月28日発行) P.126

齋藤淳一 (群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学分野准教授)

中野隆史 (群馬大学大学院医学系研究科腫瘍放射線学分野教授)

登録日: 2016-09-01

最終更新日: 2017-04-11

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  • ■放射線腫瘍学の現況と課題

    高齢者社会の到来に伴い国内における癌罹患患者数は年々増加しており,非侵襲的治療の開発・普及は喫緊の課題となっている。放射線治療は低侵襲の根治的癌治療法であり,手術が困難な高齢者や合併症を有する症例でも根治治療として適応できる可能性があり,また,根治が不能となった遠隔転移例に対しても病勢制御や症状緩和のために有効である。国内における放射線治療の認知度は高まっていると考えられるが,欧米の放射線治療の利用状況(癌罹患患者の60%以上)に比べれば,日本国内での放射線治療の利用率はいまだ50%に満たないのが現状である。放射線治療の戦略上は,腫瘍に対する線量集中性を高め,正常組織の放射線による有害事象の低減を図ることが重要である。近年の放射線治療機器,計画装置の進化は目覚ましく,標的の形状に合わせて照射野の形状を三次元的に最適化できるようになったのみならず,標的内の線量強度を変調させて再発の高リスク領域の線量増加を図ることや,標的の移動や変形などの時間的因子に対し四次元的に対応することが可能となった。また従来の放射線治療で十分な効果が得られない疾患に対しては,化学療法や分子標的治療薬の併用も一部の疾患では標準的に行われるようになってきた。さらにX線治療と比較して線量集中性が高く,生物学的効果の高い重粒子線治療の治療施設も増加しつつあり,これまで放射線抵抗性と考えられていた疾患に対する治療成績の向上が期待されている。

    TOPIC 1

    放射線治療の進化─二次元放射線治療から四次元放射線治療,適応放射線治療の時代へ

    1990年代以前の放射線治療は,X線透視や画像をもとに解剖学的構造を目安に照射野を設定する,いわゆる「二次元放射線治療」が主体であった。近年の画像診断の進歩に伴い,腫瘍の進展範囲がCTやMRIにより正確にかつ三次元的に把握できるようになり,2000年代以降は三次元画像を用いて放射線治療計画を行う「三次元放射線治療」が急速に普及した。また,放射線治療装置も高精度化し,腫瘍の形状に合わせて照射野の形状を制御できるようになったことに加え,照射野内の線量強度を変調させることにより周囲正常組織への線量を低減しつつ標的に集中的に照射することが可能な強度変調放射線治療や,極小ビームを病巣部に集中させ,小病変を1回大線量で照射する定位放射線治療も日常的に施行できる治療環境となってきた。
    一方,強度変調放射線治療や定位放射線治療のような高精度放射線治療の場合は,病巣と正常組織の間の線量勾配が非常に急峻となるため,照射野の設定,治療の前処置や位置照合について細心の注意が必要となっている。位置精度管理については,2010年より画像誘導放射線治療(image guided radiation therapy:IGRT)が保険収載されており,「IGRTとは毎回の照射時に治療計画時と照射時の照射中心位置の三次元的な空間的再現性が5mm以内であることを照射室内で画像的に確認・記録して照射する治療のことである」と定義されているが,1回照射線量が10Gyを超える定位放射線治療では1~2mmの誤差も許容できない場合がありうるため,治療の強度に見合った精度管理が必要な状況となっている。
    狭義のIGRTとは前述のごとく,放射線治療時の位置精度管理を示すものであるが,各種画像診断を最大限に活用して放射線治療計画を行うことが必須となった現在,放射線治療自体がすべて「画像誘導放射線治療」と言える状況になっている。放射線治療計画装置の多くは線量計算にCTを用いているが,CTの撮像厚も三次元治療計画が導入された当初は10mm程度であることが通常であったが,高精度放射線治療の場合は1~2mm間隔で詳細な評価を行うことが必要となっている。また,単純CTのみで腫瘍の進展範囲を正確に把握することは困難な場合も多いため,治療前には単純および造影CT,MRI,超音波画像やFDG-PET/CTを撮影し,治療計画装置内で治療計画CTと診断画像との画像融合を行って腫瘍およびリスク臓器の輪郭描出に用いることも必須となりつつある。
    さらに機能画像の利用という点では,X線抵抗性の主因とされる低酸素分画を画像化し,低酸素分画に対する線量増加を提言する報告もある1)。肺癌や肝臓癌など呼吸性の動きのある部位・臓器の治療では,従来は最大吸気から最大呼気までの移動範囲を治療域に含む必要があったが,呼吸同期・動態追尾などの方法を用いてビームを標的に集中させる「四次元放射線治療」の装置の普及も進んでいる。
    ただし,強度変調放射線治療のような高精度放射線治療の場合,治療計画の準備,検証に通常1~2週間を要するため,増殖の早い腫瘍の場合はこの準備期間の間に形状が変化してしまうことがある。また出血や液体貯留などの二次変化や,治療開始後の腫瘍の縮小,および患者の体型の変化によっても組織の形状や密度が変化してしまう場合がある。二次元放射線治療の時代でも,たとえば無気肺を伴う進行期肺癌では無気肺の改善により数cm単位で腫瘍・臓器の移動が起こる場合には状況に応じた再計画を必要とする症例はあったが,高精度放射線治療の場合には,線量分布が急峻なため,数mmの変化でも致命的な照射線量の過不足が生じてしまう可能性がある。このため,治療開始後も病巣の状況を再評価し,状況に「適応」して再計画を行う,adaptive radiotherapyの報告が急増している2)。今後適応放射線治療を普及させていくためには,複数回の画像検査による患者の被ばく線量低減と,再計画の効率化が同時に解決すべき課題である。

    【文献】
    1) Henriques de Figueiredo B, et al:Strahlenther Onkol. 2014 Sep 23. [Epub ahead of print]
    2) Olteanu LA, et al:Radiother Oncol. 2014; 111(3):348-53.

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