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ω3系脂肪乳剤への期待 【IFALD,PNALDに対する複数臓器移植の回避,自己臓器による生存期間の延長に望み】

No.4828 (2016年11月05日発行) P.50

黒田達夫 (慶應義塾大学小児外科教授)

登録日: 2016-11-02

最終更新日: 2016-10-31

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ω3系脂肪酸とは,ω3の位置に不飽和結合を持つ多価不飽和脂肪酸で,エイコサペンタエン酸(EPA),ドコサヘキサエン酸(DHA),必須脂肪酸のリノレン酸などがある。特に,魚油にEPAやDHAが多く含まれていることはよく知られる。

ω3系脂肪酸は細胞膜の構成成分として,細胞膜の流動性などを高める働きがあり,代謝産物を介してサイトカイン産生などを抑え,抗炎症作用や,阻血再還流障害を緩和する作用を持つことが報告された。さらにヒト腸管機能不全関連肝障害(IFALD)や中心静脈栄養関連性肝機能障害(PNAL D)の改善効果が海外で報告され1)2),生存を経静脈栄養管理に依存する低出生体重の短腸症候群症例や,腸管蠕動障害症例に対する画期的な新治療手段になりうるものとして期待されている。IFALDやPNALDに対する最終的治療として,欧米では肝・小腸移植が選択されてきたが,ω3系脂肪乳剤の登場により複数臓器移植の回避や自己臓器による生存期間の延長の可能性が出てきた。

わが国ではω3系脂肪乳剤は薬事未承認で,現時点では一般の入手や使用はできない。一部の施設で海外製品(Omegaven)を輸入業者より購入し,臨床研究として試験的に使用しているのが現状である。小児外科手術後の管理を一変する潜在的な可能性を持つ薬剤として,今後の臨床試験の結果などを慎重に見守りたい。

【文献】

1) Gura KM, et al:Pediatrics. 2008;121(3):e678-86.

2) Diamond IR, et al:J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2009;48(2):209-15.

【解説】

黒田達夫 慶應義塾大学小児外科教授

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