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陽子線治療

No.4715 (2014年09月06日発行) P.60

橋本孝之 (北海道大学病院放射線治療科特任准教授)

登録日: 2014-09-06

最終更新日: 2016-10-26

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陽子線は体の深部で線量のピークを形成し,標的より深部の線量がほぼゼロになるという物理特性を持つ。この優れた線量集中性を生かした陽子線治療は,周囲の臓器よりも高線量を病巣に照射でき,局所制御率の向上と有害事象の軽減が可能である。特に腫瘍径が大きい場合は,周囲に低線量域が広がるX線に比して陽子線の優位性があるため,次世代の放射線治療装置の主流として期待されている。
2014年3月には北海道大学病院を含めて国内の9施設で運用され,今後さらに数施設が建設予定で,また世界的にも需要が急速に高まっている。新しい施設では回転ガントリが標準装備されており,360度任意の方向から照射できる。また,スキャニング法という散乱体を用いない照射法では,より複雑な形状の照射野への線量集中が可能で,二次中性子の発生が少ないという利点がある。
北海道大学病院が導入した装置は,動体追跡装置とスキャニング法を組み合わせた世界初の陽子線治療装置で,肝臓や肺などの動く腫瘍や大型の腫瘍,広範囲の照射が必要な食道癌などの治療への応用が可能である。技術革新で装置の小型化・低価格化が進み,都市部でも陽子線治療装置を導入する施設の増加が見込まれている。
現在は先進医療のため患者の費用負担が大きい。特に小児腫瘍に対しては照射中の有害事象の軽減のみならず,二次発がんや成長障害のリスク低減が期待できるため(文献1),陽子線治療の早期の保険収載が望まれる。

【文献】


1) Brodin NP, et al:Acta Oncol. 2011;50(6):806-16.

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