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急性中毒に対する胃洗浄は適応を考慮して選択的に施行する

No.4700 (2014年05月24日発行) P.59

久志本 成樹 (東北大学救急医学教授)

登録日: 2014-05-24

最終更新日: 2016-10-26

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医薬品過量服用などの中毒患者に対し,胃洗浄が慣習的に行われてきた。経口中毒に対して,中毒物質が吸収される前に除去することを目的とする胃洗浄に一定の効果が期待されるのはしかるべきであるが,臨床的転帰を改善するとの根拠はなく,不利益のみを生じる可能性すらある。
1997年の米国臨床中毒学会と欧州中毒センターによるposition statementでは「胃洗浄は中毒患者ではルーチンに行われるべきではない。実験では除去率は安定しておらず時間とともに低下する。また,胃洗浄で転帰が変わる証拠はない。したがって,胃洗浄は生命に関わる可能性がある量を摂取し,かつ摂取後1時間以内でない限り考慮すべきではない。しかし適応を限定しても,臨床効果は確認されていない。また,挿管しない限り,反射が消失している症例では禁忌で,誤嚥する可能性の高い炭化水素や腐食性物質の場合も禁忌となる」としている(文献1)。
わが国では,(1)活性炭を常備していない施設が多く,毒性が高い場合や早期であれば胃洗浄は来院時に施行すべきであり,(2)致命的でない中毒や摂取量が少ない場合には活性炭投与が第一選択である。以上から,日本中毒学会による標準的治療は「毒物を経口的に摂取した後1時間以内で,大量服毒の疑いがあるか,毒性の高い物質を摂取した症例に胃洗浄の適応がある」としている(文献2)。少なくとも,医薬品過量服用に対するルーチンの治療ではない。

【文献】


1) Vale JA:J Toxicol Clin Toxicol. 1997;35(7): 711-9.
2) 日本中毒学会 編:急性中毒標準診療ガイド. じほう, 2008.

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