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腸管不全関連肝障害に対するω-3系脂肪乳剤投与

No.4730 (2014年12月20日発行) P.56

天江新太郎 (宮城県立こども病院外科科長)

登録日: 2014-12-20

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

短腸症候群やヒルシュスプルング病類縁疾患患者の栄養管理は,小児外科医が特に頭を悩ませるところです。中でも長期静脈栄養管理時に生じる腸管不全関連肝障害(intestinal failure-associated liver disease:IFALD)は場合により肝の線維化が進行し,肝不全に陥ることもあります。その治療あるいは予防として,投与エネルギーの減量,経腸栄養の併用やcyclic-PN(parenteral nutrition)の導入などが言われてきましたが,最近はω-3系脂肪乳剤の使用が有用であるとの報告が多くみられます。
このω-3系脂肪乳剤の使用に関して,使用のタイミング,使用方法や期間,中止すべき点などを含め,どのように投与するのがよいでしょうか。また,経腸栄養では投与する脂肪のω-6:ω-3の比率は4~5:1くらいがよいと言われていますが,ω-3系脂肪乳剤の静脈投与では,ω-6系脂肪乳剤の併用は必要ないのかどうかについても併せて,宮城県立こども病院・天江新太郎先生のご回答を。
【質問者】
増本幸二:筑波大学医学医療系小児外科教授

【A】

腸管不全治療におけるω-3系脂肪乳剤投与の意義は,IFALDの治療と予防であると考えています。IFALDに対するω-3系脂肪乳剤(主にOmegavenR)使用のタイミングについてですが,海外の報告では,ω-3系脂肪乳剤を投与するIFALDの基準が直接ビリルビン(D-Bil)>2.0mg/dLとされていますが,私の感覚ではD-Bil>2.0mg/dLとなってからの投与では,治療時期として遅いのではないかとの印象があります。
当科ではIFALDの定義を「腸管不全に対する治療として中心静脈栄養を施行しており,ALTが正常上限の2倍以上,または胆汁うっ滞(D-Bilが0.5mg/dL以上)で上昇傾向が認められる場合」としており,ω-3系脂肪乳剤の投与開始のタイミングは,新生児・乳児早期にみられる胆汁うっ滞型のIFALDであればD-Bil>1.0mg/dL,非アルコール性脂肪性肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)型であればGPT>200IU/Lと考えています。
治療目的の場合には,これまでの報告にもみられるようなω-3系脂肪乳剤単独投与で初期投与量0.5g/kg/日を数日間投与し,引き続き投与量上限を1.0g/kg/日として連日投与を行う方法(短期間連続投与)がよいと考えています。この場合,一般的な脂肪乳剤の投与禁忌事項に加えて,ω-3系脂肪乳剤投与にもかかわらずIFALDが悪化し肝不全に陥った場合,魚や卵レシチンアレルギーが疑われる症状を呈した場合には投与を断念するべきと考えています。
当科独自の方法になりますが,予防目的の場合には,入院で0.5g/kg/日を5日間連続投与した後に外来で週1回0.4~0.5g/kg/日を投与する方法を行っています。この方法でも,ω-3系脂肪酸の血中濃度は基準値内に維持することが可能であり,ALTが低下する傾向が認められました。予防投与の場合には,投与期間が長く,必須脂肪酸欠乏予防の目的からもω-6系脂肪乳剤との併用が好ましいと考えています。
投与期間ですが,現在は医学的な理由からではなくω-3系脂肪乳剤が国内未承認薬であるがゆえの在庫量に左右されています。しかし,治療目的であればD-Bil,ALTが改善するまで投与することが理想的であり,最低1~2カ月間は必要ではないかと考えています。予防目的であれば,前述したように期間を限定せず投与してよいと思います。
ω-3系脂肪乳剤が国内で承認された場合の腸管不全治療における投与法としては,新生児のようなIFALDリスクの高い腸管不全治療においては,中心静脈栄養の導入段階において,まずω-3系脂肪乳剤から投与を開始し,経腸栄養が開始されるなどIFALDのリスクが軽減されてからω-6系脂肪乳剤を併用し,ω-6:ω-3が1:1~5:1となるように投与量を調節していくという方法が理想的ではないかと考えています。

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