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日本の食生活で不足しがちな栄養分は?【バランスよく栄養分を摂取するために】

No.4801 (2016年04月30日発行) P.67

溝上哲也 (国立国際医療研究センター臨床研究センター 疫学予防研究部部長)

登録日: 2016-04-30

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

サプリメント(セサミン,ブルーベリーエキス,ローヤルゼリー,しじみエキスなど)を利用する人が多いようです。これまでは,カルシウムや食物繊維が不足しがちだと言われていましたが,現在の日本の食事,生活様式などから考えて,不足しがちな栄養分は何ですか。 (東京都 S)

【A】

日本人は虚血性心疾患が少なく,健康寿命も世界一ですが,その理由の1つに挙げられるのが,低脂肪で魚や大豆製品が豊富な,適度に欧風化したバランスのよい日本型食生活です。しかし,生活習慣病予防の観点を取り入れた「日本人の食事摂取基準(2015年版)」に照らすと,課題が浮かび上がります。ここでは,日本人の平均的な食事では過不足になりがちで,かつ生活習慣病予防に関わる栄養素を取り上げてみましょう。
日本人には高血圧,脳卒中,胃癌が多いのですが,塩分の多い食事が原因とされています。WHOは1日当たりの塩分摂取を5g未満に抑えるよう強く推奨していますが,日本では,現状をふまえ成人の場合は男性8g未満,女性7g未満に設定しています。減塩に加え,ナトリウム排出を促すカリウム摂取にも目を向けたいところです。カリウムには血圧や脳卒中リスクを低下させる明確なエビデンスがあります。バナナやリンゴなどの果物,緑黄色野菜,いも類といったカリウムが豊富な食品を積極的に摂ることが推奨されます。腎機能が正常で健康な人が食事から摂取する場合は摂り過ぎの心配はいりません。
次は食物繊維です。便秘予防で知られていますが,腸内環境を改善するプレバイオティクスとして近年,注目されています。食物繊維は,女性のがん死亡原因の第1位である大腸癌のほぼ確実な予防要因で,心血管疾患や糖尿病の予防にも関連しています。日本人の摂取量は減り続けており,成人の目標量1日17~20g以上に対し,現在の平均摂取量は1日15gです。気になるのは,上記疾病への予防効果が示されている穀類由来の食物繊維が3gと,とても少ないことです。穀物を食生活の基本に置き,食物繊維が豊富な低精製度の食品や全粒穀物を選ぶことが望まれます。
最後はカルシウムです。骨疾患の予防だけでなく,大腸癌や心血管疾患,高血圧,糖尿病の予防にも関連しています。成人の推奨量1日650~800
mgを満たすため,乳製品,大豆製品,小魚,葉野菜を積極的に摂取したいところです。カルシウムの吸収を高めるビタミンDも大切です。魚や干し椎茸といった食品に豊富に含まれます。筆者らが行った疫学研究では,これらの栄養素が両方高い場合に大腸癌のリスクが最も低下していました。ビタミンDは日光を浴びれば皮膚で産生されるため,日中,戸外で運動する習慣も大切です。
日頃の食生活をチェックする簡便な方法があります。「食事バランスガイド」(文献1)です。5つの料理区分からバランスよく摂取することで重要な栄養素が充足されます。健康的な食生活のため,積極的に活用したいツールです。なお,サプリメントの生活習慣病予防効果ははっきりしていません。食事からの栄養素摂取を心がけ,サプリメントで補う場合には,決められた用量を守るよう気をつけて下さい。

【文献】


1)厚生労働省:「食事バランスガイド」について.
[http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou-syokuji.html]

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