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歯でカルシウムの吸収や形成は 行われる?【骨との違いとは】

No.4799 (2016年04月16日発行) P.62

青木和広 (東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科硬組織薬理学分野准教授)

登録日: 2016-04-16

最終更新日: 2016-10-25

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【Q】

骨は3年に1度カルシウムが入れ替わると聞きますが,歯についてはいかがでしょうか。歯におけるカルシウムの吸収・代謝メカニズムをご教示下さい。 (石川県 S)

【A】

「骨のカルシウム代謝」とは,骨におけるカルシウムの出入りを司るホルモンが引き金となって全身に起こる一連の細胞を介した生理作用を指します。生命維持に重要な血液中のイオン化カルシウム濃度を維持するために,骨ではカルシウムイオンの出入りが盛んに行われます。
カルシウム代謝は,副甲状腺ホルモンやカルシトニンなどのホルモンにより,血液中のイオン化カルシウム濃度が低くなれば骨から血液中にカルシウムが供給され,逆に高くなれば骨の吸収が抑えられるように営まれています。このとき,骨を吸収する際に必要な細胞は破骨細胞と呼ばれ,副甲状腺ホルモンが引き金となり破骨細胞による骨吸収作用が活性化し,続いて骨の形成も活発に行われるようになります。一方,カルシトニンは破骨細胞に存在するカルシトニンの受容体を介して直接骨吸収作用をブロックします。また,骨は常に新しくつくり替えられており,骨を吸収する破骨細胞と骨をつくる骨芽細胞の協調による健康な骨を維持する働きもカルシウム代謝と呼べるでしょう。
腸や腎臓においても,ホルモンの作用によりカルシウムの出入りが調節されており,また骨の中に埋まっている細胞(骨細胞)がつくるネットワークを介してもカルシウムイオンの出入りが調整されています。
以上のように,ご質問にあるカルシウム代謝と呼べるシステムに関与する全身器官の中に歯は含まれていません。歯を支える顎の骨(歯槽骨)においては,前述のカルシウム代謝の影響を受け,骨の入れ替えなど新陳代謝が行われていますが,歯そのものはカルシウム代謝の影響をほとんど受けず,細胞が関与するカルシウムの吸収や形成は起こらないというのが現在の考え方です。
ご質問の意図は,「生きた歯の中心に存在する歯髄と呼ばれる組織が歯を溶かすなどが,カルシウムの出入りに関与しているのではないか」という意味かもしれませんが,歯髄を構成する象牙芽細胞,神経細胞,あるいは血管を構成する細胞が,全身のカルシウムの出入りに関与しているという理解はまだできていません。可能性は否定できませんので,今後の研究に期待したいところです。
歯にかかる矯正力により,歯槽骨に埋まっている歯の根っこ(歯根)で吸収が起こることがありますが,これは病的状態であり,組織が新しい骨に入れ替わる骨の生理的なカルシウム代謝とは異なります。厳密な意味において「歯」そのものについて考えるならば,口の中(口腔内)の唾液と歯との間の界面において行われるカルシウムの出入りが歯のカルシウム代謝とも呼べるかもしれません。口腔内と接する歯の表層(約100μm)では,主に物理・化学的変化により界面の脱灰と再石灰化が行われています。脱灰とは,細菌の産生する酸により表面が溶けることを指し,再石灰化とは,いったん溶けカルシウムが抜けた表面に,唾液中のカルシウム分などにより,再びカルシウムが沈着することを指します。

【参考】


Rosen CJ, et al, ed:Primer on the Metabolic Bone Diseases and Disorders of Mineral Metabolism. 8th ed. Wiley-Blackwell, 2013.

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