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B型肝炎ワクチンの種類を途中で変更することで生じうる問題とは?

No.4796 (2016年03月26日発行) P.55

小方則夫 (独立行政法人労働者健康福祉機構燕労災病院 副院長(消化器内科・臨床検査科))

登録日: 2016-03-26

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

B型肝炎ワクチンのビームゲンRが不足しています。途中からヘプタバックスRに変更することに問題はないでしょうか。(愛知県 O)

【A】

B型肝炎ウイルス(HBV)感染予防を目的としたHBワクチン接種は重要であり,長年懸案であったわが国におけるユニバーサルワクチン接種は2016年度から公費負担での実施が決定されました。2016年1月現在,わが国において在庫を含め供給可能なHBワクチンは国産ビームゲンR,ならびに輸入ヘプタバックスR-Ⅱの2種類ですが,供給が不安定とのことです。HBワクチンの種類を同一接種スケジュール内で変更することは,臨床試験によるエビデンスがないため筆者には経験がありません。やむをえない事情で変更する場合に生じうる事象について,下記事実に鑑み考えてみます。
上記2種ワクチンの共通点は,HBs抗原蛋白が遺伝子組み換え技法により酵母から産生されることで,相違点は,(1)使用されるHBVゲノムの血清型・遺伝子型,すなわち,ビームゲンRは血清型adr・遺伝子型C,ヘプタバックスR-Ⅱは血清型adw・遺伝子型A,(2)アジュバント(アルミニウムなど)の組成,(3)過敏反応や健康被害の恐れがある保存薬チメロサール(水銀化合物)の有無,すなわち,ビームゲンRは含有しており,ヘプタバックスR-Ⅱは含有していない,などです。
はじめに有害事象の観点から,(1)について,HBV中和抗体産生の主役であるHBs抗原“a” determinantアミノ酸配列は野生株では血清型・遺伝子型の相違にかかわらず共通しており,両ワクチンにおいても同一です(同領域に変異を有するHBV中和抗体回避変異株(文献1)については,ご質問の主旨とは異なるため割愛します)。HBs抗原蛋白発現に使用されるHBVゲノムはこの“a”determinantを含む長い領域で血清型決定基アミノ酸などいくつかのアミノ酸が相違します。HBワクチン接種により各血清型特異抗体(文献1)も産生されます。HBワクチン接種により誘導されるHBs抗体はポリクローナルな性状(文献1)で,免疫反応が若干異なる可能性がありますが,このことが有害事象につながるか否かは不明です。
(2)と(3)について,各ワクチン接種スケジュール完了者における副反応は生じても軽微であることが知られています。アジュバントの相違やチメロサールの有無が原因で新規あるいは重篤な有害事象が起こる恐れは少ないと思われます。
次に接種効果の観点から,両ワクチンはそれぞれ異なる遺伝子型HBV感染も防御するので,この点は問題ありません。しかし,両ワクチンのHBs抗体誘導能には,筆者らの系統的解析の結果,若干の差異があるため(文献2,3),各ワクチンのみの接種スケジュールによる効果と相違する恐れはあります。それでも,反応者となるべき人が無反応者となってしまう,といったような事象は起こらないでしょう。
米国小児科学会の『最新感染症ガイドR-Book
2012』(文献4)には,「種々のブランドのHBワクチンは互換性があり1つの接種スケジュールの中で交換できる」とあります。この記載を上記2種ワクチンにそのまま当てはめることはできませんが,参考にはなると考えます。また,臨床例について米国やわが国で報告されており,接種スケジュール途中で異なるHBワクチンを接種しても有害事象は皆無で接種効果も良好であった,とあります(文献5,6)。
このように,異なるHBワクチンを同一接種スケジュールに取り込むことは,理論的にもまた臨床的にも問題はないように思われます。しかし,安全性や有効性に関する臨床試験が実施されておらず,したがって,各ワクチン添付文書に記載がないため,慎重に考慮すべきと考えます。

【文献】


1) Ogata N, et al:Hepatology. 1999;30(3):779-86.
2) 小方則夫:臨病理. 2009;57(10):954-60.
3) 小方則夫, 他:日臨. 2011;69(suppl 4):408-16.
4) 米国小児科学会, 編:最新感染症ガイドR-Book 2012. 日本小児医事出版社, 2013, p369-90.
5) Seto D, et al:Pediatr Infect Dis J. 1999;18(9):840-2.
6) 梅津守一郎, 他:第47回日本小児感染症学会総会・学術集会抄録集. 2015, p239.

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