株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

高カロリー輸液における「総カロリー」計算

No.4763 (2015年08月08日発行) P.64

井上善文 (大阪大学国際医工情報センター 栄養ディバイス未来医工学共同研究部門 特任教授)

登録日: 2015-08-08

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

中心静脈栄養で,アミノ酸入りの高カロリー輸液(フルカリックなど)を使用しています。たとえば,フルカリック1号の場合,添付文書には,総カロリーが560kcalとあり,非蛋白だと思いますが,総カロリーとはどのように考えればよいですか。食事の総カロリー(たとえば,1600kcal/日の食事)という場合,蛋白質もカロリー源として計算されているのでしょうか。また,添付文書の中で「非蛋白熱量/窒素」値が150~160と記されていますが,これが持つ意味は何ですか。 (北海道 S)

【A】

いい質問です。高カロリー輸液における問題点は,キット製品が開発されて便利になったものの,その内容が理解されなくなってしまっていることです。昔の話をすると笑われますが,昔は,こういうキット製品がなかったので,グルコースとアミノ酸の配合比を計算して混合していたのです。その基準が,窒素1gに対する非蛋白熱量の比〔NPC(non-protein calorie)/N比〕であり,蛋白合成を有利に導くためには,侵襲のない状態では150前後が適切であるとされています。そのため,フルカリックも150~160となっているのです。総カロリーの560kcalの中には,もちろん,グルコースとアミノ酸も含まれています。
フルカリック1号903mL中にはグルコースが120g,アミノ酸が20g含まれています。したがって,グルコース,アミノ酸がそれぞれ1g代謝された場合に発生するエネルギー量は4kcalずつなので,[グルコース(120g×4kcal/g)+アミノ酸(20
g×4kcal/g)]と計算して560kcalとなります。また,フルカリックに含まれているアミノ酸の組成は,アミゼットRというアミノ酸液で,アミノ酸20g中の窒素量は3.12gであるので,NPC/N比は[グルコースのエネルギー量480kcal÷3.12g]と計算して,153.8となるのです。
現在発売されている高カロリー輸液キット製品は,いずれも150~160程度のNPC/N比になっています。なぜ,こういうNPC/N比になっているのかを理解しておくことは非常に重要です。
これは侵襲のない状態における使用を想定したNPC/N比です。腎機能障害がある場合は,NPC/N比を高くする必要があります。侵襲がかかった状態では,NPC/N比を低くするほうが(100前後)蛋白合成に有利であるとされています。応用問題と言っていいのかもしれませんが,脂肪乳剤を投与すると,NPC/N比の分子が増えるので,NPC/N比が高くなることはご理解頂けると思います。また,最近,経腸栄養において,蛋白強化型経腸栄養剤が発売されていますが,NPC/N比が低いので,脱水にならないよう注意すべきです。気づいたらBUNが100mg/dLを超えていた,などという問題が発生する恐れがあります。
食事の場合も,蛋白質はカロリー源として計算されています。ただし,いろいろな病態において考えておくべきですが,NPC/N比によっては,蛋白質は窒素源として利用されたり,エネルギー源として利用されたりします。NPC/N比の概念を理解しながら栄養管理を行うと,非常に理論的な栄養管理が実施できます。ちなみに,筆者が行った調査では,NPC/N比の意味を理解して計算できる医師は10%以下でした(文献1)。
もう1点,これらのキット製品を使う場合に理解してほしいのは,フルカリック1号903mLに含まれているビタミンB1は,厚生労働省が推奨する3mgという目安の半分にすぎないということです。輸液投与量が減ると,それに伴って投与するビタミンの量(エルネオパRでは微量元素も)が減るため,欠乏症のリスクが出てくる,ということも知っておくべきだと思います。

【文献】


1) 井上善文:臨栄. 2015;126(4):484-8.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top