株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

卒業生名簿などを企業に提供した際の罰則

No.4733 (2015年01月10日発行) P.62

宇賀克也 (東京大学大学院法学政治学研究科教授)

登録日: 2015-01-10

最終更新日: 2016-10-18

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

先日,医師就業斡旋や開業コンサルタントを行っている会社から,「弊社のDM発送に使いたいので,出身大学(医学部)の卒業生名簿を10日間お借りできませんか。情報は一切漏らさず,ほかのことには使いません」と,案内が来た。即座に断ったが,もし情報提供して流用された場合,何らかの罪に問われる可能性はあるか。
(東京都 S)

【A】

刑法第134条1項は,「医師,薬剤師,医薬品販売業者,助産師,弁護士,弁護人,公証人又はこれらの職にあった者が,正当な理由がないのに,その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは,6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」と定めている。医師が診察したことにより知りえた患者の病気についての情報を,本人の同意をとらずに製薬会社や生命保険会社に知らせれば,当該医師は,この条文が定める秘密漏示罪で処罰される。しかし,出身大学(医学部)の卒業生名簿は,医師が業務上知りえた人の秘密には当たらないので,それを開業コンサルタント会社に提供しても,刑法第134条の規定により処罰されることはない。
また,個人情報の保護に関する法律第23条は,個人情報取扱事業者は,原則として,あらかじめ本人の同意を得ないで,個人データを第三者に提供してはならないと定めている(第23条1項)。卒業生名簿は個人データに当たるが(第2条2項・4項),個人としての医師は,卒業生名簿を事業の用に供しているわけではないので,個人情報取扱事業者に該当しない(同条3項)。したがって,同法第23条の規制を受けないので,主務大臣(この場合は厚生労働大臣)の是正命令(第34条2項・3項)を受けることはない。したがって,命令違反による罰則(第56条)の適用はない(文献1)。
このように,質問の場合,情報提供により,刑事罰を科されることはないが,このことは,すべての法的責任を免れることを意味するわけではなく,民事上の責任は問われることになる。すなわち,出身大学(医学部)はプライバシーとして保護される個人情報であり,それを無断で営利目的の会社に提供することに正当性はなく,当該情報提供により,欲しないDMを発送されるなどの不利益を名簿登載者に与えることになる。これは,プライバシー侵害として不法行為となる。民法第709条は,「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めており,質問の場合,情報提供をしていれば,故意に他人のプライバシー権を侵害したことになり,損害賠償責任を負うことを覚悟しなければならない。名簿登載者が経済的不利益を受けなくても,精神的苦痛を受けた場合には,慰謝料を支払わなければならない(文献2)。

【文献】


1) 宇賀克也:個人情報保護法の逐条解説. 第4版. 有斐閣, 2013.
2) 宇賀克也:個人情報保護の理論と実務. 有斐閣, 2009.

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top