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脂質が慢性膵炎に与える影響

No.4728 (2014年12月06日発行) P.68

柳町 幸 (弘前大学大学院医学研究科内分泌代謝内科)

丹藤雄介 (弘前大学大学院保健学研究科保健学専攻医療生命科学領域生体機能科学分野教授)

登録日: 2014-12-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

慢性膵炎の食事療法は脂肪制限である。脂肪が膵組織(腺房細胞)にどのような影響を与えるのか。その機序を。
またオリーブオイルの場合はどうか。脂質の中でも膵組織に与える悪影響が軽度と聞いたが本当か。 (神奈川県 H)

【A】

脂肪が慢性膵炎を発症,進展させるメカニズムについては明らかでないが,慢性膵炎患者の食事調査や動物実験から,高脂肪食とアルコールの組み合わせが慢性膵炎を悪化させる因子であることが明らかになっている。
脂肪はCCK(コレシストキニン)の分泌を促進する因子である。高脂肪食の摂取によって,CCK分泌は強く刺激を受け,膵液の分泌量が増加する。また,動物性脂肪とアルコールの組み合わせは,膵液の粘稠度を増加させる(文献1)。したがって,高脂肪食(特に動物性脂肪)とアルコールをともに摂取することで,膵管内圧や膵組織内圧が著明に上昇し,膵酵素の異所性(膵組織内)の活性化が生じる。その結果,膵腺房細胞周囲の炎症細胞浸潤や,膵星細胞(線維化に関与する細胞)の活性化が生じる。そのため,高脂肪食とアルコール摂取の繰り返しは,膵腺房細胞の脱落や,膵実質の不規則な線維化などの慢性変化をもたらす原因になる。
オリーブオイルが膵組織に与える影響を検討した報告はないが,動物性脂肪と植物性脂肪の影響について報告がある。
アルコールに加え動物性脂肪と植物性脂肪を別々に投与し,膵の線維化を比較したところ(文献2),動物性脂肪投与群で膵の線維化が強くみられたと報告されている。また,先に述べた通り,アルコールと動物性脂肪の組み合わせは膵液の粘稠度を増加させ,膵管内圧上昇をもたらす。
しかし一方で,慢性的なアルコール投与のラットに植物性脂肪に多く含まれている多価不飽和脂肪酸を大量投与すると,膵腺房細胞障害が生じるという報告(文献3)がある。また,オリーブオイルの主成分であるオレイン酸は慢性膵炎モデルラットを作成する際に用いられ(文献4),膵障害をきたす脂肪酸として知られている。したがって,オリーブオイルは動物性脂肪よりは膵腺房細胞障害が少ない可能性はあるが,過剰摂取は避けなければならない。ちなみに,ω3系脂肪酸は急性膵炎とともに,慢性膵炎の進展を抑制できる可能性があるとの報告がある(文献5)。
高脂肪食は慢性膵炎の発症,進展因子であり,脂肪摂取は代償期の腹痛や急性増悪の危険因子である。このため,脂肪制限食が慢性膵炎の食事療法と考えられがちである。しかし,脂肪制限食はあくまで腹痛時や急性増悪時のみに施行する。代償期の腹痛がない時期(間歇期)や非代償期には,40~60g/日程度の脂肪摂取が必要(文献6)である。漫然とした脂肪制限の継続は,必須脂肪酸の欠乏や脂溶性ビタミン,微量元素の欠乏を招く危険性があるため,好ましくない。

【文献】


1) Beaudoin AR, et al:Pancreas. 1989;4(4):418-22.
2) 室井忠樹, 他:慈恵医大誌. 1994;109(4):777-90.
3) Tsukamoto H, et al:Am J Pathol. 1988;131 (2):246-57.
4) Yamaguchi T, et al:Pancreas. 2005;31(4):365-72.
5) Weylandt KH, et al:Biochim Biophys Acta. 2008; 1782(11):634-41.
6) 中村光男, 他:栄評治. 1996;13(1):47-53.

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