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重粒子線治療の適応

No.4741 (2015年03月07日発行) P.55

鎌田 正 (放射線医学総合研究所重粒子医科学センター長)

登録日: 2015-03-07

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

外来で重粒子線治療の適応を尋ねられる機会が増えています。通常のX線治療〔定位照射,強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy:IMRT)を含む〕よりも重粒子線治療が有用である症例,および前立腺癌,肺癌での重粒子線治療の適応をご教示下さい。放射線医学総合研究所・鎌田 正先生に。
【質問者】
福原 昇:相模原協同病院放射線科部長

【A】

[1]一般的な適応
通常のX線治療に比べて線量の集中性と生物学的効果(細胞致死作用)に優れる重粒子線は一般に,(1)放射線高感受性の重要臓器に近接する病巣,(2)放射線抵抗性を示す腫瘍,などにおいて良好な効果が期待されます。
(1)としては眼球や脊髄,消化管に近接する腫瘍,進行頭頸部癌,傍脊椎腫瘍,後腹膜の腫瘍などが代表的なものです。また(2)として腺癌などの非扁平上皮癌,悪性黒色腫,肉腫などがあります。放射線照射後の再発腫瘍も,条件が良ければ良い適応となっています。胃や腸など消化管そのものの癌,放射線高感受性のリンパ腫などは適応外です。
[2]前立腺癌
前立腺癌ではN0M0症例はすべて治療可能です。全例を通じて,直腸の副作用が少なく,治療期間が短い(現在3週間)という利点があると考えています。非再発率でも低リスク群以外はX線治療より良好と言えると思っています。特にGleason 8以上の高リスク症例には当院でも重粒子線治療を強く勧めるようにしています。
年齢やPSA(prostate specific antigen)値による制限はなく,適応の広い治療法ですが,高齢かつ低リスクで生検陽性コア数も少ない場合は,当院ではPSA監視療法を勧める場合も少なくありません。また,内分泌療法単独での再発(去勢抵抗性癌)や,前立腺全摘後の再発,放射線治療後やHI
FU(high intensity focused ultrasound)治療後の再発は今のところ適応外としています。
また,膀胱癌の既往があり,無再発期間が短い(5年以内)場合は,膀胱癌が再発した場合の治療が難しくなる可能性があるため,原則として手術を勧めます。ただし,高齢などの理由で前立腺癌の根治手術が困難な場合は,治療を行うこともあります。
一方,前立腺肥大症に対する経尿道的前立腺切除術(trans-urethral resection of the prostate:TUR-P)後や抗凝固療法実施中の患者さんには尿道障害や出血のリスクが高いことを説明しますが,治療可能です。
活動性の潰瘍性大腸炎は,それを理由に治療を延期した症例があります(最終的に直腸線量を通常以上に制限して治療し,今のところ問題ありません)。
[3]肺癌
肺癌は原則として組織診または細胞診で診断が得られた非小細胞肺癌が対象です。腫瘍の大きさが計測可能で,PS(performance status)は0~2,本人に病名が告知されており同意能力があることが条件です。大血管,気管,食道,脊髄に浸潤がある場合や,肺内転移,胸水,胸膜播種,癌性心嚢水,遠隔転移,N2以上のリンパ節転移,重複癌を伴う症例は適応外です。また小細胞肺癌も適応外としています。
良い適応は,重粒子線治療単独で根治が期待できる早期の肺癌で,Ⅰ期肺癌や中心型早期肺癌(扁平上皮癌)です。進行癌については,胸壁浸潤のT3(横隔膜浸潤を除く)でリンパ節転移がないT3 N0症例や,原発巣と連続した肺門リンパ節転移でN1となった症例は適応としています。縦隔腫瘍と悪性胸膜中皮腫は適応外です。また,転移性肺腫瘍は原発巣の再発がなく他に転移がない単発性転移を対象としています。肺線維症の合併例においては,慎重な適応の検討が必要と考えています。

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