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「奇形」を「形態異状」に置き換えるべきか - 患者の尊厳と医学的な正確さの間で葛藤 [日本医学会シンポジウム]

No.4811 (2016年07月09日発行) P.9

登録日: 2016-07-09

最終更新日: 2016-12-08

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【概要】日本医学会が6月16日に都内で開いたシンポジウム「医学用語を考える」で、森内浩幸長崎大院教授(日本医学会医学用語管理委員会委員)が講演し、「医学用語に不快な表現を残しておくべきではない」と述べ、日本医学会内で「奇形」の言い換えの検討に着手したことを紹介した。

森内氏は小児科医の立場から講演。森内氏によると、7万以上あるとされる医学用語の中には、未だに差別・侮蔑的なニュアンスを含む表現、当事者を不快にさせる表現(表1)が多く残っているという。
森内氏は「医学用語は医師と患者のコミュニケーションの手段。当事者とその家族が耳にして不快に感じる表現は、置き換えたほうが望ましい」と強調。中でも「奇形」については、日本小児科学会からの要望で、日本医学会の医学用語管理委員会で言い換えの検討を始めたことを明らかにし、言い換え先の有力候補として「形態異状」を紹介した(表2)。

●医学的には正しくない「形態異状」
ただし、「奇形」の言い換えには大きな壁があるという。「胎生期の発生異常に基づく、肉眼的に認識できる形態異状」という定義に照らせば、奇形をすべて「形態異状」に置き換えることは医学的な正確性を欠いてしまう。
また、「奇形」はほぼすべての診療領域で普及しており、発生学、遺伝学、保健福祉などの分野でも使用されているため、置き換えには混乱・反発も予想される。シンポでは森内氏が、「既にインターネット上では喧々諤々の議論が起こっており、怖くなって途中で読むのをやめてしまった」とこぼす場面もあった。

●言葉狩りにならぬよう検討
しかし、一方で「機運」とも言える動きもあるという。その1つが、厚生労働省による医療費助成の対象となる小児の難病「小児慢性特定疾病」の疾患群分類。改正児童福祉法の施行に伴い同省は昨年、助成の対象疾患を拡大したが、その際に、ダウン症候群などの大分類の名称を従来の「先天異常症候群」から「染色体又は遺伝子に変化を伴う症候群」に変更した。これも「医学的には正しくない」置き換えだが、森内氏は「当事者と家族の心情を考慮した結果だ」と評した。
講演のまとめとして、森内氏は「患者の尊厳を傷つけかねない表現は置き換えを検討すべきだ。しかし、置き換えが単なる言葉狩りになってはいけない」と述べ、医学的な正確さとのバランスをとりながら、慎重に検討を進めていく方針を説明した。

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