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腹痛[私の治療]

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  • ▶検査および鑑別診断のポイント

    単一の検査で急性腹症を除外せず,すべての所見を総合的にとらえ,方針決定する。

    【血液検査】

    血算,生化学,凝固,血液ガス検査(手術や輸血時は感染症,血液型,交差適合試験)を行う。白血球・CRP高値で虫垂炎等の急性腹症を,乳酸高値でショックや腸管虚血を疑うが,正常でも除外しない。

    【尿検査】

    尿定性・沈渣や尿中hCG,尿中ポルフォビリノーゲン(急性ポルフィリン症)を必要に応じて検査する。

    【腹部X線】

    急性腹症への感度は低い。腸閉塞,S状結腸捻転,消化管穿孔を疑う際,仰臥位・立位(または左側臥位)で撮像する。

    【12誘導心電図】

    心窩部痛の高齢者や虚血性心疾患リスクの患者で行う。

    【超音波】

    腹痛の初療に有用である。特に胆石・胆囊炎では,CTに比して感度が高い。虫垂炎,腸閉塞,腹腔内出血,大動脈瘤破裂,尿管結石,卵巣茎捻転,異所性妊娠も観察できる。

    【腹部CT】

    感度・特異度ともに高い。単純CTでは尿管結石や総胆管結石を診断できるが,造影CTは炎症(虫垂炎,胆囊炎,消化管穿孔),虚血(絞扼性腸閉塞,腸管虚血),血管・出血病変,膵炎重症度判定等に有用であり,造影により正診率が向上する。

    【腹部MRI】

    胆道・婦人科疾患,妊婦の急性腹症で検討する。

    ▶落とし穴・禁忌事項

    虫垂炎初期では,心窩部痛に比してMcBurney点の圧痛が乏しいことがあり,見逃しに注意する。糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)や薬物中毒など腹部以外の病態も鑑別する。高齢者の腸閉塞では鼠径・大腿・閉鎖孔ヘルニアの可能性も疑う。

    ▶その後の対応

    【鎮痛薬】

    早期の鎮痛は,円滑な診療につながるため推奨されている。

    一手目 :アセリオ注(アセトアミノフェン)1回1000mg(15分かけて点滴静注),体重50kg未満の場合,1回15mg/kg

    一手目 :〈疝痛の場合〉ブスコパン注(ブチルスコポラミン臭化物)1回20mg(静注)

    緑内障・前立腺肥大・心疾患・イレウスでは禁忌。


    二手目 :〈一手目に追加〉ソセゴン注(ペンタゾシン)1回15mg(点滴静注),またはフェンタニル注(フェンタニルクエン酸塩)1回1〜2μg/kg(静注)

    【抗菌薬】

    腹腔内感染症では好気性グラム陰性菌や嫌気性菌をカバーする抗菌薬を選択し,敗血症では広域抗菌薬を検討する。

    一手目 :ロセフィン注(セフトリアキソンナトリウム水和物)1回1~2g 24時間ごと(点滴静注)単剤,またはアネメトロ注(メトロニダゾール)1回500mg 6~8時間ごと(点滴静注)を併用

    二手目 :〈敗血症の場合〉ゾシン注(タゾバクタム・ピペラシリン)1回4.5g 8時間ごと(点滴静注),またはメロペン注(メロペネム水和物)1回1g 8時間ごと(点滴静注)

    【診療方針(disposition)】

    手術等が必要な場合,外科や婦人科など該当の科にコンサルトする。腹痛が強く残る患者や高齢・免疫抑制・意識障害などリスクが高い症例では,経過観察または入院を考慮する。救急外来で診断に至らず帰宅させる場合,12時間以内など早期のフォローアップを検討し,患者説明を十分に行う。

    【参考資料】

    ▶ 急性腹症診療ガイドライン出版委員会, 編:急性腹症診療ガイドライン2015. 医学書院, 2015.

    垣内大樹(慶應義塾大学医学部救急医学教室)

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