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「施設看取り体制強化で搬送減少を」 - 高齢者救急への医療資源投入で提言 [日本救急医学会シンポジウム]

No.4724 (2014年11月08日発行) P.7

登録日: 2014-11-08

最終更新日: 2016-11-17

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【概要】高齢者救急への医療資源投入のあり方を巡り、日本救急医学会のシンポジウムでは、救急医と開業医の連携強化を求める提言や、高齢者救急を公的保険外とする提案がなされた。


10月29日に福岡市で開かれた日本救急医学会のシンポジウム「超高齢化社会における医療資源投入のあり方」では、今後も増加が見込まれる高齢者の救急搬送の適正化に向けた方策が提言された。

●心肺停止「すべて救急車」、老健の4割以上
真弓俊彦氏(産業医大教授)は、2012年6月に愛知県一宮市の老健181施設を対象に実施した、終末期における延命処置の希望聴取状況と心肺停止時の対応についてのアンケート調査結果(回収率約60%)を公表した。それによると、44%の施設では延命処置の希望聴取を行っておらず、急変時の対応マニュアルを作成していた施設は18%にとどまった。
「延命処置を希望しない」意思を表明していた入所者が急変した時の対応(図)では、「心肺停止時にはすべて救急車を呼ぶ」が4割以上を占め、「すべて施設で対応する」としたのは3割以下だった。
さらに、蘇生開始後に「延命処置を希望しない」意思表示があったと判明した場合でも、約4割が「蘇生を継続し、救急車を呼ぶ」と回答していた。
真弓氏は、「延命処置を希望しない終末期患者の、無益な救急搬送が少なくない。そのような人に蘇生を試みることは、かえって生命の尊厳を損ねている」と指摘。その上で、老健における急変時の対応について、(1)入所時に患者・家族、施設等の関係者間での協議を義務づける、(2)職員への終末期教育を行い、施設での対応指針を作成する、(3)救急医と開業医の連携によって施設での看取り体制を整備し、不要な救急搬送を減らす─の3つを提言した。

●命とお金の問題、「もはやタブー視できない」
濱邉祐一氏(都立墨東病院救命救急センター部長)は、「今後も救急医療が若年者も高齢者も受け入れるならば、救急医療は崩壊する」と警告。「崩壊を回避するための方法として、救急医療に投入する資源の量的拡大はもはや望めず、高齢者の救命救急センターへの収容適用の厳格化しか方法はない」と訴えた。
さらに、すべての高齢者が「人は必ず死ぬ」「死の責任は誰にもない」「不老不死は幻想である」─という「健全な死生観」を持つ必要があると指摘。「健全な死生観の醸成に最も効果的なのは、金銭による規制をかけること。命とお金を結びつけて考えることをタブー視していては埒が明かない」として、医療者と患者が生命の維持にかかるコストを直視する重要性を強調。まとめとして、「高齢者の救急医療には公的医療保険を適用しない」ことを提案した。

●真弓氏の提言は学会ガイドラインに反映も
司会を務めた田勢長一郎氏(福島県立医大教授)は、シンポジウムの締めくくりに、真弓氏の提言について「実現可能性が高い」として、「学会内にワーキンググループを設置して検討を重ね、学会ガイドラインの作成に持っていってほしい」と述べた。

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