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【識者の眼】「医療職間のタスクシェア」草場鉄周

No.5171 (2023年06月03日発行) P.56

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2023-05-25

最終更新日: 2023-05-25

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去る3月30日に招かれて内閣府の規制改革会議、医療・介護・感染症対策WGにて医療職のタスクシェアに関する意見を求められ、発言する機会があった。当初依頼されたのは「訪問看護ステーションへの輸液、基本薬剤などの配備と必要時の迅速な処方」、そして「薬剤師による患者宅での輸液の交換」を認める方向性に関する見解を教えてほしいという具体的な事項に関するものだった。それ自体は、看護師と、薬剤師あるいは医師との間で適切な連携体制を事前に構築することで、特に問題なく実施できるのではないかと思えた。ただ、こうした個別的なテーマを議論するだけではタスクシェアの本質にはつながらないのではという感が強く、以下のような論点を提示した。

カナダや英国など海外の医療システムでは、医師・看護師・薬剤師・リハ職・MSWなどは互いの専門性を尊重しながら「対等」な立場で連携しながら、質の高い患者ケアを提供するというあり方が基本的な前提となっている。しかし、日本では医師をピラミッドとした各種指示を前提とした制度設計が強固で、医師以外の専門職が医師の判断に強い忖度と遠慮を示す風土が蔓延していることを実感してきた。議題となる様々なタスクシェアは医師などから他の職種に対して「許容する」という恩恵提供の側面が感じられ、この前提がまったく崩れていないのがそもそも大きな問題である。

たとえば、看護師においては、比較的自由度の高い訪問看護、病院での専門看護師や診療看護師の業務を除き、医師の指示の絶対性が目立ち、むしろ看護師側も医師の指示がないと「自主的には動けない or 動かない」といった弊害も目立ち、それが医師の負担が大きくなっている一因である。それゆえ、小手先の規制改革で業務拡大するだけでなく、本来は国家資格を持つ専門職がより対等かつ自立して協働する方向性を構造改革として模索することがあるべき姿ではないか。

それをふまえて、筆者の運営するような小規模の医療機関の外来での虚弱高齢者に対する生活評価、認知機能評価、身体機能評価、リハビリ。そして、生活習慣病患者に対する食事指導、運動指導、禁煙指導、疾病管理。さらには、小児患者に対する予防接種管理と支援、母親の育児状況の評価、メンタルヘルス患者に対するカウンセリングなどを外来看護師が担う方向性も模索すべきである。医師の包括的な指示の下で、こうしたケアを提供する余地は残されているが、それらを看護師が提供できる機能として文書で明示した上で、診療報酬でも評価することが重要である。そして、すべての看護師に求める必要はないが、意欲を持つ看護師がその能力を発揮できる環境を整備し、結果的に給与などの待遇もさらに改善されることが重要であり、医師にとっては、権限が奪われる不安ではなく、信頼できる強力なパートナーが増えて、患者のケアの質がより向上するという発想が必要ではないか。

多職種の学会である日本プライマリ・ケア連合学会では学会認定プライマリ・ケア看護師の養成も始めており、まさにこの提言の実現に向けて一歩踏み出している。まだまだ道のりは長いが、日本のプライマリ・ケアの現場で真のタスクシェアが行われるよう努力を尽くしていきたい。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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