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【識者の眼】「かかりつけ医関連法案の行方」草場鉄周

No.5166 (2023年04月29日発行) P.61

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2023-04-20

最終更新日: 2023-04-20

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先月に引き続き、衆議院の厚生労働委員会に4月4日に参考人として呼ばれ、「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案」に対して、現場でコロナ診療に取り組んできたプライマリ・ケア医療の専門家の立場で意見を述べる機会を頂いた。この3年間継続して様々な場で意見表明させて頂いてきたわけだが、ある意味、その集約の場という気持ちで臨んだ。

発言内容はこの「識者の眼」でも繰り返し紹介してきたものである。パンデミックで個々の医師や医療機関が可能な範囲で懸命に努力したのは事実だが、プライマリ・ケアの位置づけと提供体制が曖昧な状況では保健所などの行政機関、高度急性期医療機関とのスムーズな役割分担が難しく、結果的に本来プライマリ・ケアが担うべき発熱外来や自宅療養患者への往診などをきめ細かく全地域で全国民に提供することは難しかったこと。それを踏まえ、国民とプライマリ・ケア医療機関を明確に結びつける一歩としての「かかりつけ総合医制度」の創設が望ましいこと。つまり、希望する医療機関、患者双方が手挙げ方式でつながる、緩やかな登録制の導入である。

しかし今回の法案は、かかりつけ医機能そのものを法的な位置づけとする意味での一歩前進はあるが、医療機関による自主的な「かかりつけ医機能の情報提供」とそれを踏まえた地域における面としての連携機能構築という現状追認に近いレベルにとどまる上、健康な国民を対象としていない意味でもパンデミックの教訓に応えるものではないことを指摘し、今後のさらなる改善と政策の展開を強く求めた。

質疑では議員の関心も高く、特に野党議員からは類似した問題意識を持っている立場での発言が多かったように思える。そして、最終的には野党の多くが法案には反対したが、与党賛成多数で衆議院を通過した。今の政治情勢では結果は予想されたものであったが、今までこのかかりつけ医を含む日本のプライマリ・ケアの課題について政治の場で語られることはほとんどなかった状況で、少なくとも厚労関連の与野党の議員が本テーマを語り合い考える機会ができたことは、大局的な視点では大きな一歩であったと感じている。

プライマリ・ケアは国民に対して大きな影響を与える医療分野である。その制度化については、一部の医療者や医療団体、特定のアカデミア、厚労省のみで細かな内輪の議論を展開するだけでなく、国民とその代表である政治家、そしてメディアも含めて幅広く長期的な視点で語り合うことは必須であろう。まだ、そうした状況には遠い現状だが、今回の国会はその最初の一歩であった。プライマリ・ケアの制度化については緩やかであっても未来志向で前進できるよう、私自身もライフワークとして粘り強く取り組んでいきたい。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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