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【識者の眼】「留年者多数発生の報道で考える教育効果」薬師寺泰匡

No.5141 (2022年11月05日発行) P.56

薬師寺泰匡 (薬師寺慈恵病院院長)

登録日: 2022-10-25

最終更新日: 2022-10-25

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群馬大学医学部医学科で、留年者が多数発生していることが報道されていた。医師の仕事は、臨床、研究、公衆衛生、そして教育に分けられる。この業界は教育の仕方について教わらないままに教育指導側に回ることは珍しくない。一方、大学であれ、市中病院であれ、研修医制度や専攻医制度も一般的なものとなってきており、教育に携わる機会は増えている。まったく教育に携わらないということは難しく、報道を他人事として眺めてはいられない。

教育を行う上では、目標が重要である。初等教育、学校教育には、社会生活上必要な知識を学ぶという重要な目標があり、専門学校ではそれぞれの業種に必要な知識や技能を学ぶという目標がある。未熟なものを成熟へという視点があろう。成人教育では、成熟したものをさらに高みに導くという視点も持ち合わせており、習得すべき知識や技能が比較的あいまいでも、動機づけや方法論そのものを学ぶことで、自律的な学習へ導くという視点も重要となる。

先日、JATECコースにインストラクター参加してきた。外傷診療に必要な知識と救急処置を学ぶ教育コースである。参加者は医師のみで、コース参加により最低限の知識と技能を身につけ、「Preventable Trauma Death(避けられた外傷死)」を防げるようになることが目標となる。基本的には多人数が不合格となることはない。学習者の努力が不足している場合は目標達成ができなくなってしまうが、コース参加の前提としてe-learningを受講し、一定以上の成績が獲得できていなければコース参加ができない仕組みとなっている。そうなると、多人数で目標達成ができない場合は、教育法が悪いか、試験法が悪いか、評価法が悪いか、ということが考えられる。コロナ禍もあって今年からはWEBでの講義も用いており、インタラクティブな講義がしにくい状況にはなっているが、質を落とさない努力がなされ、外傷診療の知識と技能習得をしてもらっている。基本的には不合格者の発生はない。

群馬大学で起こっていることは、学習者の努力、教育法、試験、評価のどこの問題か。学習者の努力の問題であれば、客観的な指標により合否ラインが明示されて然るべきだろう。では教育側に何か問題はないだろうか? 教育者に対するフィードバックは十分か? 試験は公正で評価は客観的か? 一教員の問題であるかのように報道されているが、目標未達成者が多数発生する状況には組織として改善が求められるのではないか。

薬師寺泰匡(薬師寺慈恵病院院長)[医学教育]

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