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【識者の眼】「違和感を覚える最近の新型コロナ対応」水野泰孝

No.5137 (2022年10月08日発行) P.58

水野泰孝 (グローバルヘルスケアクリニック院長)

登録日: 2022-09-27

最終更新日: 2022-09-27

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これまでの最大の流行となった第7波も9月に入り減少傾向となっています。今後、まったく異なった変異株の出現がなければ極端に大きな波になる可能性は高くはないと考えますが、早くもメディアでは「第8波」の話題を取り上げています。冬季に向けてインフルエンザをはじめとする呼吸器系感染症が流行しやすい環境になることは確かではありますが、国民の関心の高いコロナ報道を幕引きさせたくはないのかもしれません。

このような状況の中、オミクロン株対応の2価ワクチン(起源株+オミクロン株BA.1)の接種が開始されました。つい最近まで起源株の4回目接種が行われており、2価ワクチンの承認、接種開始時期がある程度判明した後でも「該当者は新たなワクチンを待つことなく直ちに接種を推奨する」という意見が少なくありませんでした。

私は感染症専門医でありワクチン接種を否定するわけではありませんが、今回ばかりは「なぜ新たなワクチン接種が予定されているのに、それを待つことなく接種すべきという意見が多く取り上げられているのか?」と大きな違和感を覚えました。「できるのであればできるときに早めに」ということは理解できますが、接種してしまえばしばらくは追加接種をすることができませんし、接種後短期間でのブースター効果は限定的である可能性があります。また「冬季の流行に備えて接種する」ことも理解はできるのですが、発症予防効果は数カ月で減衰することもわかっており、今回の流行では4回接種後でも短期間で発症している方が散見されています。その一方で、重症化予防は3回接種でも高く認められることから、「直ちに起源株のワクチンを接種すること」のメリット・デメリットを天秤にかけたときに、大きなメリットがなく、デメリットとなる副反応のほうが無視できないのではないかと考えるところです。

専門家の間でも賛否両論があるとは思いますが、メディアの情報では「待つことなく接種」ということだけが強調されていた印象です。私も本件に関してメディアからコメントを求められましたが、上記私見は番組の意向に沿わなかったらしく、当たり障りのないと思われる識者がコメントをしていたようです。連日交代で識者に解説させる報道番組にその傾向が強い印象で、私は何度か提言をしましたが、余計なことを言うとオファーは来なくなります。

ワクチン以外でもコロナを特別視しない方向性のコメントは好まれない傾向にあるようで、ある取材では常連の識者の意見と反対意見だったことから私の意見が取り下げられることもありました。メディア以外でも、日本感染症学会と日本化学療法学会が9月2日に厚労省に提出した提言は、内容が開発中の治療薬ensitrelvir(商品名:ゾコーバ®)の緊急承認などを要請するものであり、その説明も理解し難い点が少なからずあったと感じました1)

様々な状況での「コロナ忖度」とも言うべき事象に最近は特に違和感を覚えます。

【文献】

1)Medical Tribune:オミ株出現で激変、新薬候補には疑義. 

   https://medical-tribune.co.jp/rensai/2022/0916547326/

水野泰孝(グローバルヘルスケアクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症]

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