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【識者の眼】「プライマリ・ケアとコロナ─どうか、コロナも診てください」岩田健太郎

No.5107 (2022年03月12日発行) P.54

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2022-03-01

最終更新日: 2022-03-01

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稀有でマニアックな輸入感染症はガチな感染症のプロが診るのがスジ。そのとおりだと思う。が、新型コロナウイルス感染症は既に国内外で蔓延しまくっており(「蔓延防止」という言葉に鼻白んでしまうくらい)、もはや稀有でマニアックな疾患ではなくなっている。そう、新型コロナウイルス感染症は、今やコモン・ディジーズなのである。

多くの感染者は自宅で療養し、あるいはホテルで療養し、既に「医療」の枠外に置かれている。逆に多くの入院患者はレッドゾーンをつくった病院に入院する。

足りないのは、その「中間」だと思っている。つまり、外来診療や在宅医療といった、いわばプライマリ・ケアの領域だ。

発熱外来などでコロナの診断や治療に尽力されている開業医さんは存じている。しかし、そういう奇特なドクターは少数派のようで、耳に入ってくるのは殺人的に忙しい外来でスタッフが疲弊しまくっている、という、いつかどこかで聞いたような話だ。

在宅医療でも頑張っている方々の噂は耳にする。そのネーミングも素晴らしく、KISA2隊はテレビ番組の「情熱大陸」にも取り上げられ、とても有名になった(https://www.mbs.jp/jounetsu/2021/10_17.shtml)。このKISA2隊は兵庫県にも進出しており、八面六臂の活躍を見せていると伝え聞く(https://www.dreamnews.jp/press/0000253752/)。

が、「情熱大陸」に出ること自体、このような活動が稀有なことの逆説的な証左ではなかろうか。保健所からの入院依頼。自宅で熱が出て、ご飯が食べられなくなって、入院を……在宅? 誰も行ってくれません……のエピソードが多いのもまた事実。

熱で衰弱、ご飯が食べられなくなって……は在宅チームが点滴などで対応していただければ、入院を回避できるケースも多い。なのに入院する。1類感染症を受け取る指定医療機関の病棟はいつしか療養型の介護的な病棟に転じ、そのため新規患者やコロナ以外の疾患患者受け入れを断るようになる。

「餅は餅屋」である。外来や在宅でケアできる軽症患者の診療は、やはりプライマリ・ケアのプロが診たほうが上手だ。パキロビッドのマニアックな問い合わせは感染症屋にしてくれればよいので、ぜひプライマリ・ケアはプライマリ・ケア医に遂行していただきたい。コロナは、コモン・ディジーズなのだから。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[新型コロナウイルス感染症]

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