株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

齲蝕,歯髄炎[私の治療]

No.5101 (2022年01月29日発行) P.48

恩田健志 (東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座講師)

登録日: 2022-02-01

最終更新日: 2022-01-26

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
    • 1
    • 2
  • next
  • Streptococcus mutansを主とする感染症で,複数の因子が関与する多因子疾患である。S. mutansは,ショ糖を基質として菌体外多糖類である不溶性グルカンを形成し,歯面に強固に結合して,多種の細菌集落であるプラークを形成する。プラークは多様な細菌が存在し,それぞれの拮抗因子などの相互作用を経て形成される膜状構造体(バイオフィルム)である。バイオフィルム形成により細菌は抗菌薬から守られ,産生された酸が局所に停滞することによって歯質の脱灰が生じる。
    齲蝕には,エナメル質齲蝕,象牙質齲蝕,セメント質齲蝕(根面齲蝕)があり,好発部位は,小窩裂溝,隣接面,歯頸部,露出セメント質である。初期は歯冠部表層のエナメル質齲蝕あるいは歯根部表層のセメント質齲蝕であるが,病巣が拡大進行すると象牙質齲蝕となり,さらに進行し,歯髄に達すると歯髄炎を呈する。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    初期の平滑面エナメル質齲蝕は, 肉眼的に不透明な白斑あるいは褐色斑として認められ,小窩裂溝部では褐色の着色として観察される。

    齲蝕がエナメル質の範囲にとどまっている場合,自発痛はない(齲蝕症1度:C1)。齲蝕病巣が象牙質に達し,エナメル質表面が崩壊すると,齲窩を形成し,冷水痛が発現する。象牙質はエナメル質と比較して石灰化度が低いため,齲蝕の進行が速くなる傾向がある(齲蝕症2度:C2)。象牙質齲蝕が進行し,歯髄に影響が及ぶと歯髄炎を惹起し,強度の自発痛が発現する(齲蝕症3度:C3)。

    歯髄炎が進行すると歯髄壊死が起こり,一時的に疼痛は軽快するが,病状の進行は続き,根尖孔から根尖部周囲組織に波及し,根尖性歯周炎に移行する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    齲蝕は脱灰と再石灰化を繰り返すダイナミックな病態を示すため,エナメル質に限局した病変はもちろん,象牙質に達する病変でさえも,齲蝕リスクを低くコントロールできる場合には,切削せずに再石灰化処置を施して経過観察することにより,良好な経過が得られることが多い。

    白斑あるいは褐色斑として認められるエナメル質初期齲蝕に対しては,フッ素塗布やフッ化物徐放性グラスアイオノマーセメントの塗布により,再石灰化が期待できる。

    齲窩を形成した場合は自然治癒が見込めないため,最小の切削介入を行い,コンポジットレジンなどを充塡する。

    象牙質齲蝕の切削は,細菌が侵入し感染が成立した「感染象牙質」と,脱灰してはいるが細菌感染はなく,再石灰化が可能な「齲蝕影響象牙質」とを鑑別し,切削を感染象牙質にとどめる。

    可逆性歯髄炎の場合は,齲蝕の除去後,菲薄・脆弱化した健全象牙質に対して,水酸化カルシウム製剤などの覆髄剤を一層設けることで,外来刺激を遮断し,歯髄を安静に保つとともに,歯髄に修復象牙質の形成を促し,歯髄を保存する。

    不可逆的歯髄炎の場合は,歯髄の除去を行う(抜髄)。

    歯根未完成の幼若永久歯に対しては,罹患した冠部歯髄のみを除去し,健康な根部歯髄を生存させて歯根形成を促すアペキソゲネーシスを試みる。

    根部歯髄が保存できない場合は,根管内の感染物質を除去し,暫間的に根尖部に薬剤を貼付することで,硬組織の添加による根尖孔を閉鎖するアペキシフィケーションを行う。

    残り907文字あります

    会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する

    • 1
    • 2
  • next
  • 関連記事・論文

    関連書籍

    関連物件情報

    page top