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ディオバン臨床研究不正事件,最高裁が上告棄却─わが国の論文改ざんを助長しかねない決定[J-CLEAR通信(129)]

No.5075 (2021年07月31日発行) P.36

桑島 巖 (J-CLEAR理事長)

登録日: 2021-07-28

最終更新日: 2021-07-28

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2021年6月28日,最高裁判所はディオバン臨床研究不正事件で東京高等検察庁の上告を棄却し,ノバルティスファーマ(以下,ノバルティス社)元社員の被告・白橋伸雄氏の無罪が確定した。2015年12月から東京地裁で行われた一審,東京高裁での二審におけるそれぞれの無罪判決を経て5年半に及んだ本事件裁判は漸く決着がついたことになる。

本事件は,わが国から発信された一連のディオバン関連大規模臨床試験論文のひとつ,京都ハート研究(KYOTO HEART Study)においてノバルティス社元社員によるデータ改ざんが疑われたことに端を発する。厚労省が調査委員会による調査結果を受けて,白橋氏とディオバン販売元のノバルティス社を,虚偽・誇大広告を禁止した旧薬事法(現・医薬品医療機器等法)違反の疑いで2014年1月に刑事告発。同年7月に白橋氏とノバルティス社が起訴されたことで法廷闘争に発展した。

■「改ざんはあったが,無罪」という判決に違和感

検察は,元被告の自宅で押収したUSBメモリから消去されたデータを復元し,そのファイルを詳細に分析することで,web入力データにはなかった45例のイベント発生データを発見し,裁判ではその真偽を巡って検察側と弁護側の激しい応酬が続いた。40回にも及ぶ公判の結果,2017年3月16日,東京地裁裁判長はノバルティス社元社員が意図的に論文の改ざんを行ったことは認めたが,学術論文は広告には該当しないとの法解釈から,被告人無罪との判決を下した。

今回の最高裁の決定は,東京高裁同様に一審判決を支持するものであり,その決定文において「本件各論文の本件各雑誌への掲載は,特定の医薬品の購入・処方等を促すための手段としてされた告知とはいえず」として,薬事法の規制する行為に当たらないと判断したことから上告を棄却したと述べている。

すなわち,論文不正が行われたことは認めるものの,論文の投稿,掲載という行為自体は現在のわが国の法律には違反しないという結論である。
この「悪事を働いたが,法的には無罪」という結論は,多くの医療関係者,一般の国民には納得しがたいところであろう。

■意図的改ざん論文を正当なものとした決定文

最高裁は決定文において,「本件各論文の本件各雑誌への投稿,掲載は,著者である研究者らによる同一分野の専門家らに向けた学術研究成果の発表であるといえる。そして,このような専門的学術雑誌における学術研究成果の発表は,同一分野の専門家らによる検証・批判にさらされ,批判的意見も含む議論を通じ,その内容の正当性が確認されていくことが性質上当然予定されているものということができる」と付記している。

しかし,当該論文はその内容の正当性が確認されていくことが予定されたものではなく,意図的に改ざんすることによって専門家を欺くことを企図していたことは明白である。このことに最高裁裁判官は気付いていないか,あるいは完全無視し,偽装論文すら正当性が予定されていると述べていることになる。該当論文が専門家による検証の結果,掲載が撤回されていることには一切触れていない。

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