No.5057 (2021年03月27日発行) P.57
柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科副医長)
登録日: 2021-03-09
最終更新日: 2021-03-09
日本でも新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)のワクチン接種が始まりました。今回は、現在使用されているファイザー社のメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンについて2021年3月9日現在での情報をご紹介いたします。
mRNAワクチンは「新型コロナの一部」をつくる設計図、脂質、ポリエチレングリコール等でできています(アジュバントや水銀は入っていません)。ウイルス自体は入っていないため、ワクチン接種でウイルスに感染することはありません。mRNAは体に設計図を届けると、すぐに消滅し、人間のDNAに組み込まれたり、胎盤を通過したり、受精卵や胎児へ悪影響を与える可能性は無いと考えられています。設計図を使って私達の体の細胞が「新型コロナの一部」を作ると、体はウイルスが入ってきたと錯覚して「抗体」を作ります。この抗体が、本当に新型コロナに感染したときに即座に働き、感染しても発症しにくくなり、かつ重症化を抑える効果があります(有効率95%)。
mRNAワクチンにはウイルス自体は含まれていないため、妊娠中の接種は禁忌ではありません。アメリカ、イギリス、日本の産婦人科学会では「感染するリスクや、重症化リスクの高い合併症のある妊婦の方はワクチン接種を検討」「妊活中の方も安全にワクチン接種できる」としています(日本産科婦人科学会では、現時点では器官形成期後の妊娠13週以降での接種を推奨)。初期の臨床研究には妊婦・授乳婦の研究参加者が少なく、現在データが不十分な状態ですが、2021年2月より妊婦4000人を対象にした臨床研究が進行中です。アメリカではワクチン接種後に約3万人が妊娠し、270人近くが出産されリアルタイムで情報を収集しています。現時点では、妊娠中に副反応(アレルギーやアナフィラキシー)の頻度が高いという報告はありません。ワクチン接種前に妊娠検査は不要です。
mRNAワクチンが母乳中へ移行する量は非常に少なく、万が一移行しても児へ影響を与えないと考えられています。授乳中の方は一般の方と同じようにワクチン接種ができ、ワクチン接種後に授乳を控える必要はありません。〈3月9日〉
【参考文献】
▶国立成育医療研究センター「妊娠・授乳中の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種について」 [http://www.ncchd.go.jp/kusuri/covid19_vaccine.html]
▶日本産婦人科感染症学会、日本産科婦人科学会「COVID-19ワクチン接種を考慮する妊婦さんならびに妊娠を希望する方へ」 [http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20210127_COVID19.pdf]
柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科副医長)[新型コロナウイルス感染症]