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医療現場から見た爆傷と銃創[提言]

No.5046 (2021年01月09日発行) P.54

鈴木隆雄 (Emergency Medical Centerシニア・メディカル・アドバイザー)

登録日: 2021-01-11

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  • 〔要旨〕東京オリンピックをひかえ,テロに対する医療が語られ始めている。爆傷に関する文献は多数存在するが,ポイントがわかりにくいのが現状である。原因の1つに戦傷外科を経験しているとは思えない内容があることが挙げられる。理論が先走りし現実と乖離しているのだ。そこで戦傷外科における医療現場の本音を述べていく。

    1 爆傷と銃創

    医療人にとって重要なのは,生きて医療施設に到達した負傷者(以下,生存負傷者)をいかに治療するかである。その視点から医療人のストレス度を計ると,以下の順となる。

    ①カラシニコフ銃に代表される小銃からの高速銃弾(high velocity missile:HVM)による負傷。特にそれが腹部銃創の場合
    ②爆傷
    ③拳銃による低速銃弾(low velocity missile:LVM)による負傷

    ただし,大中血管損傷での生存負傷者は病院近郊でLVM(速度600m/秒以下)に負傷した症例が多い。出血多量だが急げば助かる見込みがある。HVM(速度600m/秒以上)では中血管損傷でも即死となり,生存負傷者の多くが小血管損傷である。しかし,挫滅創からの出血では,外科医の実力差が治療を大きく左右する。爆傷は四肢の切断や多数の負傷痕と,負傷者の人生を大きく左右する事態だが,治療は処置に時間を要するだけで慌てることは少ない。医療人にとって真のストレスは,時間との闘いを強いられる傷である。

    2 爆弾の威力

    爆弾と銃弾との大きな違いはその形状にある。銃弾はその流線形の形状から一直線に飛び,強い推進力で体内深くに食い込む。爆弾は,中に詰められた破壊物が爆発とともに飛散するのだが,破壊物は流線形でなく空気抵抗も強いため,爆発後は,速度も飛距離も急速に低下する。砲弾が遠くに飛んだとしても,肝心なのは着弾後の爆発からでそこからの飛距離は短く,爆発地点近くにいない限り致命傷にはならない。

    3 爆風

    爆風の威力は,125ポンド(57kg)爆弾が破裂すると,4.6m離れた地点で13.6気圧の爆風圧が生じ,15m離れると0.7気圧に低下する1)。爆風圧と空気圧を合計しても1.7気圧になるだけである。30mも離れると軽微な圧となる。したがって爆発地点にきわめて近くにいない限り,爆風だけの損傷は大きくない。
    爆傷はその受傷起点で4種類に分類される。

    ①一次爆傷:爆発で起こる風圧で身体が障害される
    ②二次爆傷:爆発物に含まれる金属片などが身体を障害する
    ③三次爆傷:爆発による建物の崩壊や,身体が吹き飛ばされて受ける障害。たとえば外傷的切断など
    ④四次爆傷:爆発による間接的な障害。たとえば窒息,火傷など

    爆傷による死因の多くは,爆発地点近くにいた場合,破片による二次爆傷である。しかし身体表面に損傷がない即死例もある。これが,真の一次爆傷死である。この一次爆傷をいまだに誤解している医療人がいる。爆風が口腔から気管を通り,肺を損傷するとの理解である。第一次世界大戦後に行われた動物実験の結果,一次爆傷死の原因は,爆風による胸郭・腹部への直接圧迫であった1)

    一次爆傷だけの肺損傷は軽度のことが多く,来院時血痰を排出し,X線でバタフライ様陰影を認めても,数日で退院していく。瀕死の重症例も皆無ではないが多くは二次爆傷で,かつ胸部ではなく四肢外傷である。HVMの胸部貫通銃創ですら胸腔ドレーンですむことが多く,貫通力の弱い爆弾破片はさらに軽度な損傷となる。これは肺が柔軟性に富み,低比重であるため,射入破片の運動エネルギーを吸収しにくいことによる。
    爆傷症例の多くは四肢外傷だが,生存負傷者の多くはターニケットでの止血か,自然に出血が治まった場合である。二,三次爆傷による大腿部や股関節部の外傷的切断では生存が難しいが,下腿部の切断は多くが助かる。下腿部切断で断裂した血管は攣縮で容易に止血するからである。二次爆傷の腹部外傷は腸管損傷も軽度で,1,2針の直接縫合ですむことが多く,試験開腹に終わることもある。

    爆傷で注意したいのは,爆発が室内のような閉鎖空間でなのか,屋外の解放空間でなのかである。当然,閉鎖空間の爆発のほうが破壊力は強い。爆薬は小さくても,人が混む閉鎖空間で爆発が起きると負傷者は増加し,即死でなくても爆発地点に近い負傷者は重症となる2)

    テロ爆発の一例として筆者が経験した北イラクについて述べる。自動車等に仕掛けられた爆発物は,事件後トリニトロトルエン(trinitrotoluene:TNT)100 kgとか200kgと報告されることが多い。そのどれもが,ニュースで騒ぐほど負傷者の治療で混乱することはない。たとえば自動車に仕掛けられた200kg TNT爆弾が路上で爆発したとする。負傷者数は爆発時に混雑していたかどうかにもよるが,生存負傷者は大抵50人前後,手術室でデブリドマンが必要な患者が10人前後,開腹手術が数人,胸腔ドレーンが数人,ほかは外来で処置可能という割合である。爆傷は銃創とは異なり血管損傷が少なく,ショック状態の患者は少ない。マドリッド,パリ,ロンドンなどの爆発事件でも,生存負傷者の多くは歩行可能レベルであった3)

    4 地雷と即席爆発装置(IED)対 迫撃砲

    地雷と即席爆発装置(improvised explosive device:IED)はどちらも負傷内容は同じであり,その区別は臨床現場では不要である。地雷・IEDは標的を特定して設置されるため,爆発物との距離が近接しており,負傷は大きくなる。一方,迫撃砲は標的に着弾させるのは難しく,かつきわめて近くで爆発しない限り即死に至らない。迫撃砲による負傷は,散弾銃の傷を大きくしたものと想像すればよい。砲弾での生存負傷者は大きな破片がいくつも体に入り込んだりしているが,治療に難渋することは少ない。消化管損傷の場合も,多くはHVMよりも軽傷である。

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