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【識者の眼】「子どもたちの力で地域はもっとつながり合える」川越正平

No.5034 (2020年10月17日発行) P.62

川越正平 (あおぞら診療所院長)

登録日: 2020-09-25

最終更新日: 2020-09-25

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病状が悪化してかなりの時間が経過した時点で初めて医療機関を訪れる患者がいる。医療者との関わりが浅く、生命の危機に瀕するまで患者医師関係が深まっておらず、方針決定に苦慮する場面にも遭遇する。このような困難の解決を図るためには、もっと早い段階から働きかける以外にない。

そこで、6年前から松戸市医師会として、小中学生に健康に関する出前講座を行うプロジェクトを立ち上げた。「いのちの尊さ」と「認知症」をテーマとする基本スライドを開発し、用いている。どちらのテーマも、①単なる知識伝授型ではなく行動変容を促す②家庭内でのACP推奨③人と人・地域とのつながり強化④かかりつけ医推奨の4つをキーコンセプトに位置づけている(詳細は後述)。子どもを通じて地域社会まで影響を及ぼすという狙いを込め、まちっこプロジェクト(Matsudo Child to Community Project)と名付けた。基本スライドをもとに、授業を担当する医師が臨床経験を加えて講義することにより、講師の負担を最小化している。

①子どもたちに知識だけでなく行動変容を促すことに加えて、授業で学んだ内容を周りの大人に伝えることを「宿題」として課し、親、祖父母、近隣住民などへ波及効果が及ぶことを意図している。具体的には、「地域が健康でいられるかどうかは君たちにかかっている。今日学んだことを周りの大人に伝えるのが皆の役割だ」と連呼している。②高齢化や医療の高度化の進行により判断に迷う場面が生じうる今日、ACPの周知を目指す。もう一つの宿題として、「余命6カ月と言われたら(認知症と診断されたら)どこでどんなふうに暮らしたいか」と大人へのインタビューを求めている。③地域では、医療介護従事者はもちろん、保健師、民生委員、NPO関係者、ボランティア等が参画している。誰しも一人で生きているのではなく、家族や友人、学校や職場、近隣住民等の存在のもと、地域社会は成り立っている。④いのちの大切さや家族の健康について相談できるかかりつけ医を持つことを推奨する。

授業終了後に子どもたちに配るカラー刷テキストの印刷費用は、市から予算を頂戴している。どの学校でいつ授業を実施するかなどのマッチングについて、教育委員会の力強い支援を頂戴している。2019年度は市内65校中22校で開催し、3567名に授業を行った。授業を通じて医師たちは、子どもたちから浴びる多くのエネルギーに刺激を受け、まちづくりに貢献する確かなやりがいを実感している。

川越正平(あおぞら診療所院長)[がん教育][認知症啓発][出前講座][まちっこプロジェクト][医師会活動]

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