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【識者の眼】「『行動制限』への世間の反応を通じて、精神科病院で行われている事態はイレギュラーと実感」堀 有伸

No.5024 (2020年08月08日発行) P.59

堀 有伸 (ほりメンタルクリニック院長)

登録日: 2020-07-28

最終更新日: 2020-07-28

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「新しい生活様式」「三密を避ける」という形で、世間の多くの人々が、行動制限に従うことを求められています。4月7日に緊急事態が宣言され、5月末にそれが解除されるまで、日本でも多くの人々が様々な活動を自粛しました。その時の我慢がよほど辛かったのか、国民の行動範囲が広がり、感染も拡大しつつある状況が、7月末に出現しています。それでも、もう一度4〜5月と同じような行動制限を実施することは、7月26日時点では容易ではない雰囲気です。

今回の文章は、結論のない連想のような内容になっていることを、予めお断りしておきます。私の職業生活の半分くらいは、精神科病院の病棟管理医としての仕事でした。医療的な目的で行動制限が頻繁に行われる現場です。数年間から数十年間、非自発的な形式での入院を続け、その間に病棟から外出したことのない方がたくさんいました。個室への隔離や身体拘束が必要になり、それは長くても数日間で終わらせたかったのですが、数週間・数カ月と続いたことがなかった訳ではありません。もちろん不満を言った患者さんたちもいたのですが、ずいぶんおとなしく従ってくれていたと思います。もっとも、少なくない向精神薬を服薬していたという事情もありました。1960年頃には約7万6000床だった日本の精神科の病床数は、その後に4倍以上に増加しました。その途中では、1984年に病院職員からの暴行によって患者が死亡するというような事件さえ起きていました。

それでも、精神障害者の方々の行動制限が緩和され、社会の中で受け入れられて生活できるという状況が十分に出現するのには、時間がかかりました。相当に改善されたと思いますが、まだその途中です。

私は精神科病院や、原発事故被災地といった、社会の中でマイナーな領域で主に仕事をしてきたと言えるかもしれません。そこで経験したことが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を通じて、東京を中心とした日本の多数派に起きているというのが、新しい傾向として感じられる点です。マイナーな領域で行動制限の問題が必死に訴えられてきたのは、ずっと無視されてきました。しかし、COVID-19による行動制限に関して、私たちと同様の認識をしてもらえることが多いのだな、と実感しています。

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[新型コロナウイルス感染症]

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