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【識者の眼】「周死期の苦悩に対応するため医療界と宗教界が協力を」田畑正久

No.5025 (2020年08月15日発行) P.63

田畑正久 (佐藤第二病院院長、龍谷大客員教授)

登録日: 2020-06-15

最終更新日: 2020-06-15

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医療と仏教は生老病死の四苦の課題を共通のものとして持っています。しかし、日本での現実は、両者の協力関係はほとんど実現できていません。

最先端の医療を担っている医師は現代科学の最先端の知識・技術を総動員して取り組んでいます。その姿勢は敬意を受けるに値するものです。とくに悪性腫瘍(癌など)への取り組みは確実に治療成績を上げています。現代医療で対応できなくなった進行癌などでも、緩和ケアで身体的疼痛対応はきめ細やかに対応されるようになりました。

緩和ケアを担当されていたある医師は、自身が胃癌を発症して、手術を受けるも根治術は出来ず、病状が進む中で緩和ケアを受ける立場になってみて、この領域で足りないところがあることに気付き、「死に行くものの道しるべを失った、日本の文化状況に驚いた」と発言されています。日本の医療文化、そして一般の人たちが、老病死をできるだけ先送りか、考えないように避けてきたことによって、医療関係者の中に老病死を受けとめる文化が育ってこなかったのです。癌の治療には科学的知見を総動員する一方、老化の受けとめや癌患者の心のケアに関しては、哲学・宗教文化(仏教を含む)に関する先人の蓄積を総動員して取り組もうという姿勢が少ないように思われます。

科学思考の医学・医療は生きている間の問題に取り組むのであって、周死期(死の前後の期間を包括的・連続的にとらえた概念)には原則として関わりません。癌の緩和ケアにおいて、癌患者から発せられるスピリチュアルペインには周死期の問題による苦悩が多いのですが、臨床現場では、哲学・宗教への素養の少ない医療者(当事者にはその自覚がない)が関わる可能性が多いと思われます。

2012年度より東北大学文学部が臨床宗教師(チャプレン)を養成する課程を立ち上げました。臨床宗教師の養成は宗教系の大学でも取り組みが始まっています。高齢社会を迎えて、医療界と宗教界の相互理解と協働の文化が育つことが切に願われます。

田畑正久(佐藤第二病院院長、龍谷大客員教授)[医療と仏教]

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