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【識者の眼】「年間8000人死亡の衝撃」具 芳明

No.5017 (2020年06月20日発行) P.62

具 芳明 (国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)

登録日: 2020-06-03

最終更新日: 2020-06-03

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昨年12月に薬剤耐性(AMR)の話題が多くのメディアを賑わせた。それは、日本においてMRSA菌血症とフルオロキノロン耐性大腸菌(FQREC)菌血症を合わせて年間約8000人が死亡しているとの研究結果(Tsuzuki S, et al:J Infect Chemother. 2020;26:367-71)であった。MRSA菌血症とFQREC菌血症によって2017年にそれぞれ約4000人が死亡し、前者は減少傾向、後者は増加傾向となっていた。大腸菌感染症の増加、そして薬剤耐性大腸菌の増加は諸外国とも一致する傾向である。

AMRは医療関係者にとっては身近な問題だが、社会一般ではまだ危機感が強いとは言えない。そのためか、年間8000人という数字は驚きをもって受け止められた。この研究は厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)のデータと国内の臨床研究結果を組み合わせて推定したものであり、2菌種のみによる菌血症しか対象としていない。すなわち、AMR全体ではこれよりもずっと多くの死亡が生じていると考えられる。

それでは日本ではAMR全体でどのくらいの死亡が生じているのだろうか。残念ながらその問いに直接答えるデータはまだないが、別の研究では、MRSA感染症によって年間約2.5万人の死亡数増加が生じていると推定されている(https://research-er.jp/projects/view/955720)。ここには菌血症だけでなく肺炎などMRSAによる他の感染症も含まれている。手法の違いもあり、これらの研究結果を単純に並べて比較することは難しいが、日本でAMRに関連して少なくとも万の単位に及ぶ死亡が生じていることは間違いなさそうである。

死亡届には感染症病名は記載されても起因菌はほとんど記載されない。ましてや起因菌が薬剤耐性菌かどうかを死亡届からうかがい知ることは不可能である。AMR対策を進めていくためには、その社会的インパクトをできるだけ正確に測定する必要がある。これらの研究を通じて日本においてAMRがどのくらいのインパクトを与えているのか明らかになっていくことを期待したい。

具 芳明(国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンター情報・教育支援室長)[AMR対策]

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