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Dr.写六最後の事件(後編)[痛み探偵の事件簿(10)]

No.5005 (2020年03月28日発行) P.32

須田万勢 (諏訪中央病院総合診療科/リウマチ膠原病内科,聖路加国際病院リウマチ膠原病センター)

監修: 小林 只 (弘前大学医学部附属病院総合診療部)

登録日: 2020-03-30

最終更新日: 2020-03-25

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〈あらすじ〉盛当Drから紹介された潰瘍性大腸炎の既往がある42歳女性。2~3カ月前から運動で増悪する左前腕伸側痛が出現していた。近位部の回外筋浅層部,と遠位部では異なる腱の交差部(intersection)へのエコーガイド下fasciaハイドロリリースで著明に改善した。今回は何を治療したのか?橈骨神経そのものをリリースしたのだろうか?写六の考察が始まる。

渡村「神経『そのもの』が痛みを出しているかどうかは,最近異論も出てきているっていうのはどういうことなんだい?」

写六「痛みを感じる神経はどういう神経か,学生のときに習わなかったかね?」

渡村「えーと,確か,C線維やAδ(デルタ)線維じゃなかったっけ?」

写六「ご名答!本例でエコー画像として見てきた橈骨神経は,いわゆる神経の「本幹」のようなものだ。この本幹は,これらの線維が束になった神経束の集合体なんだ。「神経」と表現した場合,「神経線維」か,「神経束の集合体」か,あるいは「神経系(中枢神経,末梢神経含むシステム)」のことか,混同されることが多いので要注意だ。さて,そんな神経の本幹をリリースしたとして,C線維やAδ線維が影響を受けると思うかい?」

渡村「いやそんなこと考えたこともなかったよ。でも待てよ,C線維やAδ線維には,どこから刺激が入力されるのだろう?」

写六「いい質問だ。C線維やAδ線維に感覚入力を行うのは「侵害受容器nociceptor(1次侵害受容ニューロン,DRG)の末梢終末の髄鞘が消失した自由終末部(free nerve endings)」で,それはfasciaの中に埋め込まれている。一方,筋肉に分布する感覚神経のうち約80%は「間質」つまりfascia部分に存在する,C線維やAδ線維なんだよ1)。これらが何を意味するかわかるかい?」

渡村「えーと,つまり神経の走行に沿った痛みに見えても,その神経の自由終末が分布する先の,筋などのfasciaに由来する痛みかもしれないってことか?」

写六「そう。まだ研究途中だがね。経験的にはよくあることだよ。発痛源としてのfasciaからの刺激が,侵害受容器に入力されて,C線維やAδ線維などの神経線維を通電して,脊髄,そして脳へ伝わるという考えだ。」

渡村「なるほど,理解はできる。神経生理学的にも,神経線維自体は基本的に「電線」であり発痛源にはならないしな(CRPSⅡ型など本物の神経障害性疼痛を除く)。じゃあ,神経本幹が痛いというのは『まやかし』なのか?」

写六「いやいや,神経の本幹が発痛源になることもあるんだ。」

渡村「さっきと話が違うではないか?」

写六「それだけ,痛みの生理学はわからないことだらけということさ。たとえば,神経本幹に由来する症状については,「神経の神経」とも称されるnervi nervorumの関与を指摘する人もいる。」

渡村「神経の神経?なんだ,それは?禅問答か?」

写六「はは。神経の本幹に分布している自由神経終末といえばわかるかい?一方で,末梢神経の本幹と,その周囲のfasciaは分離できず,肉眼解剖学的にも組織解剖学的にも連続しているんだ2)。」

渡村「なんと!つまり?」

写六「つまり,エコーで見えている神経本幹のリリースは,神経線維自体というよりも,神経本幹を構成しているfasciaの治療とも理解できるんだよ。今回の場合,フロセのアーケード部分のリリースは,橈骨神経の浅枝(知覚枝)そのもの(=本幹)が,fasciaの重積でトラップされており,そのfasciaを治療していた可能性がある。」

渡村「そして,もうひとつのintersectionのリリースは,本幹というより自由神経終末が多く分布するfasciaの重積を治療した可能性がある,ということだな。この部位ではエコーでは神経自体を見ることは困難だ。」

写六「君は最近話が早くなったな。それでこそ私の相棒だ。それでは君の苦手分野,東洋医学からこの症例を解説してみようか。」

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