株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

【識者の眼】「新型コロナウイルス感染症:軽症者に外来でPCR検査を行ってはいけない理由」川口篤也

No.5002 (2020年03月07日発行) P.64

川口篤也 (函館稜北病院総合診療科科長)

登録日: 2020-03-02

最終更新日: 2020-03-02

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国内の新型コロナウイルス感染症患者数は、2月29日12時時点で、チャーター便、クルーズ船の患者を除いて197例となった(厚労省ホームページ)。ここにきて国内の複数地域で、感染経路が明らかではない患者が散発的に発生しており、市中感染のフェーズに入ったと言わざるを得ない。そのような中で政府は3月中を目処に新型コロナウイルスのPCR検査を保険適用にすることを発表した。これは一見朗報と捉える向きもあるが、個人的にはむしろ感染を拡大させることを危惧している。確かに、入院中の肺炎患者でもPCR検査が断られた事例(検査件数の上限があるためやむを得ないこともある)がなくなることや、保健所を通さずに医師が疑った場合に迅速に検査に進めるというメリットはある。しかし、入院の必要のない軽症者に対して外来でPCR検査をすることには現時点で以下のデメリットばかりが目立つ。

①検査希望の外来受診者が増えて、医療機関内で感染が拡がる。

②発熱者外来を設置したとしても、検査希望者が殺到すれば、発熱者外来受診者間で濃厚接触が起こる(発熱者を十分な間隔で隔離できる施設を持つところはほとんどない)。

③検査をする人はN95マスクも含めた個人防護具(PPE)の装着が必要(現在PPEの在庫は十分ではなく、すぐに足りなくなったり、そもそも用意できないクリニックも多数ある)。

④一回検査をする毎に適切な手順でPPEを脱ぐ必要があるが、少しでも不適切な手順があると感染のリスクが上がる。

⑤上記に人員を割くことができ、PPEも十分に用意できるところは限られ、結果としてさらに感染症指定医療機関やそれに準じた病院への業務負荷が起こる(そのような病院では入院でも重症患者の治療にあたっており、かなりの業務負荷がすでに起こっているし、現在学校の休校で出勤できる職員数も減っており、余分な人員がある医療機関はほとんどない)。

⑥新型コロナウイルスのPCR検査の感度はそれほど高くない(おそらく70%を下回る…確定の数字ではない)ため、結果が陰性だった患者が新型コロナウイルス感染症ではないと思い、自宅療養を続けずに職場などで感染を増やすリスクが増す。

以上より、PCR検査が保険適用となっても、検査対象は感染確定者の濃厚接触者、(入院を要する)肺炎患者に絞って検査するのが妥当と現時点では考える。

川口篤也(函館稜北病院総合診療科科長)[新型コロナウイルス感染症]

ご意見・ご感想はこちらより

関連記事・論文

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top