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顎骨腫瘍(エナメル上皮腫)[私の治療]

No.4986 (2019年11月16日発行) P.55

恩田健志 (東京歯科大学口腔顎顔面外科学講座講師)

登録日: 2019-11-18

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  • 歯原性腫瘍は,歯を形成する組織に由来する腫瘍の総称で,顎骨ならびにその周囲に限局した領域に発生し,体幹など,他の部位にはみられない。
    エナメル上皮腫は顎骨に発生する代表的な良性の歯原性腫瘍であり,歯科口腔外科領域における重要な疾患のひとつとして認知されている。
    組織学的には良性腫瘍に分類されているが,多くは局所浸潤性を有し,再発も多く,稀ではあるが悪性転化症例も報告されている。
    術前の正確な診断と病理組織学的診断に合った適切な治療が重要である。術後の長期的な経過観察は必須である。

    ▶診断のポイント

    【症状】

    エナメル上皮腫は,発症初期には自覚症状がないまま経過することが多く,歯科治療の際に撮影されたX線写真上で,顎骨内の単房性あるいは多房性のX線透過像として偶然発見されることも多い。

    自覚症状や他覚的な病的所見は,ある程度病変が進展するまではほとんど観察されない。進展例では,顎骨の膨隆による顔貌の非対称が観察される。

    口腔内所見としては,歯の移動,萌出障害,歯列不正,歯根の鋭利な吸収や歯の動揺などがみられる。下顎では下唇の知覚低下や麻痺がみられることもある。

    膨隆した顎骨では皮質骨が薄いので,ペコペコした羊皮紙様感が認められる。囊胞様の場合で骨外に進展した際には波動が触知できる。

    【検査所見】

    本腫瘍は一般的に顎骨内に発生するため,画像診断の役割は大きい。診断に有用な画像は,口内法X線撮影,パノラマX線撮影,CT,MRIなどである。

    画像所見からは,単房性,多房性,蜂巣状あるいは泡沫状の境界明瞭な囊胞様の透過像がみられ,辺縁硬化像を示す。腫瘍に接する歯根は,鋭利な刃物で切断されたように吸収される。境界は明瞭で,滑らかな一層のX線不透過像(骨硬化線)を呈する。

    単房性ではホタテ貝状辺縁を呈する。大きくなると下顎下縁は膨隆して菲薄化し,卵殻状を呈する。50%に埋伏歯を含む。

    本腫瘍に類似した画像所見を呈する疾患は,他の歯原性腫瘍と歯原性角化囊胞,含歯性囊胞,歯根囊胞などの囊胞が挙げられ,鑑別を要する。

    生検は,術前の診断の確定に最も有効であり,良悪性を含めた組織型に関する情報が得られるので,必ず行う必要がある。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    本腫瘍の治療法は,顎骨保存外科療法と顎骨切除とに大別される。

    顎骨保存外科療法は,顎骨の連続性を保ち,形態や機能を温存して腫瘍の根治をめざす治療法である。開窓,摘出,摘出・搔爬,反復処置法などの術式があるが,再発が問題となる。

    顎骨切除は一般的に根治術と称され,再発率が低く,根治性が高いのが特徴であるが,形態や機能,審美的問題,神経麻痺,再建,発育期の患者への適応などに問題がある。

    根治性を重視した顎骨切除を選択するのか,再発のリスクを負うが顎骨機能温存を目的とした顎骨保存外科療法を選択するのかなど,現在も多くの議論があり,術者や施設ごとに様々な治療法が選択されている現状がある。

    本腫瘍の治療の原則は,腫瘍を完全に除去することであり,まずは顎骨切除の適応を考慮する。本腫瘍は,周囲骨組織に浸潤性に発育するため,腫瘍のみの単純な搔爬や摘出では再発の危険性が高く,腫瘍と接している骨組織を含めて切除する必要がある。

    臨床的には囊胞形成の有無により,囊胞性と充実性とに大別できる。生検時に病変内部を観察することにより,充実性か囊胞性かを判断するとともに,病理組織学的診断を得て,組織型から病変の特徴,性格をふまえた上で治療法を選択する。

    内部が充実性の場合は顎骨切除と,必要に応じて骨移植による顎骨再建術を行う。

    内部が空洞の場合(囊胞性)は腫瘍のみを摘出し,周囲骨をバーで削除する摘出・搔爬をまず考慮するが,比較的大きな病変に対しては開窓を先行して行い,腫瘍が縮小後に摘出・搔爬または顎骨切除を施行する。

    組織型が単囊胞型(内腔型)では摘出・搔爬のみで予後良好である。2017年に改訂された世界保健機関(World Health Organization:WHO)国際分類(第4版)で,単囊胞型から除外された壁在型では単囊胞型と比較して再発率が高く,X線写真上の単房性のX線透過像から,安易に単囊胞型と判断して,単純な摘出術や開窓が行われると高頻度に再発や治癒不全をきたすため,注意を要する。

    【注意】

    好発年齢は10~20歳代,20~40歳代とする報告が多い。若年者に対する治療法の選択が難しい。

    本腫瘍は良性であるが,再発が多く,顎骨切除および顎骨再建が根治的となるが,障害と再建リスクとのバランスに考慮する必要がある。

    若年者であれば摘出・搔爬で腫瘍の縮小を待つことも可能であるが,時に周囲軟組織に浸潤することもある。

    【禁忌】

    若年者における顎骨区域切除以上の顎骨切除の選択は慎むべきである。一方で,再発を繰り返している症例に対する顎骨保存外科療法の選択も適切でない。再発を繰り返すうちに悪性転化をきたした報告もあり,顎骨切除を考慮する。

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