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骨盤位(逆子)への鍼灸治療の根拠・方法と効果は?

No.4983 (2019年10月26日発行) P.58

形井秀一 (洞峰パーク鍼灸院院長/筑波技術大学名誉教授)

登録日: 2019-10-29

最終更新日: 2019-10-21

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逆子の鍼灸治療の根拠,方法と効果についてご教示下さい。(大阪府 C)


【回答】

【課題はRCTなどで検証されている。子宮の血流量を増加させて軟らかくし,胎児を返りやすくしていると考えられる】

(1)骨盤位(逆子)の歴史

18世紀初めまでは,医の東西を問わず,胎児は分娩直前まで骨盤位で,分娩時に回転して頭位になって出てくると考えられていました。もし,分娩直前に回転できずに足などが先に出てくれば,鍼灸医学では,倒産(逆子)であり,至陰(BL 67)(足指第5指外側の爪甲根部)などの経穴に鍼灸治療が行われました。しかし,1765年に賀川玄悦1)が,『子玄子産論』に,「5ヶ月を過ぎると,……,背面而倒首(頭位)となる」と,現代医学の産婦人科の頭位と同じ概念を世界で初めて記述しました。

(2)鍼灸治療の有効性

逆子の鍼灸治療の報告は,1950年代に,産婦人科医の石野信安が,20例中16例(80%)が頭位となったことを報告しました2)。また,1980年代には,産婦人科医の林田和郎が,584例の逆子に鍼灸治療を行い,89.8%の高い有効率を報告しました3)

この2論文を含め,1950年以降,わが国の主な症例集積論文は16件あり,12件が72.2%以上の回転率です。治療時の週数が32~35週で検討した10論文中8論文が61.4%以上の回転率でした4)
ランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)については,1998年以降,中国,イタリア,スイス,オーストラリア,スペイン,フランス,デンマークなどで,8件報告され,有効4件,無効4件でした5)

(3)治療方法

鍼灸治療法は,わが国の16論文中,鍼は8論文で,うち7論文が三陰交(SP6)(内踝の上方,約10㎝,頸骨後際)への刺鍼でした。灸は15論文で,14論文が至陰,9論文が三陰交で,12論文が両穴を併用し,また,7論文で自宅での灸を指導しています。灸の多くは直接灸でした。また,海外の8件のRCT論文中,灸のみは6論文,鍼と灸併用は2論文で,灸法は温熱刺激の棒灸,経穴はすべて至陰が使用されていました6)

(4)副作用

わが国の16論文および海外の8RCT論文の副作用報告は,嘔気,水疱・色素沈着,皮膚損傷,切迫早産などがありますが,重篤な報告はなく,鍼灸は,安全な介入方法と考えられました6)

(5)骨盤位に対する鍼灸効果のメカニズム

生体に対する研究には,林田3),高橋7),釜付8),Dunn9)などの論文があり,また,動物実験では,ラットでの佐藤ら10)の研究があります。
これらを整理すると,下腿・足部への刺激が,脊髄性あるいは,上脊髄性の自律神経反射により,臍帯動脈や子宮動脈を拡張し,子宮への動脈血流増加を促した結果,子宮の血流量が増えて軟らかくなり,胎児を返りやすくしている,と考えられます。

【文献】

1) 賀川玄悦:子玄子産論. 1765.

2) 石野信安:日東医誌. 1952;1(3):7.

3) 林田和郎:東邦医会誌. 1987;34(2):196-206.

4) 小井土善彦:逆子の鍼灸治療 第2版. 形井秀一, 編著. 医歯薬出版, 2017, p29-37.

5) 東原亜希子:逆子の鍼灸治療 第2版. 形井秀一, 編著. 医歯薬出版, 2017, p38-44.

6) 形井秀一, 編著:逆子の鍼灸治療 第2版. 医歯薬出版, 2017.

7) 高橋佳代, 他:東女医大誌. 1995;65(10):801-7.

8) 釜付弘志:日東医誌. 1995;45(4):849-58.

9) Dunn PA, et al:Obstet Gynecol. 1989;73(2): 286-90.

10) Sato Y, et al:J Auton Nerv Syst. 1996;59(3): 151-8.

【回答者】

形井秀一 洞峰パーク鍼灸院院長/筑波技術大学名誉教授

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