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(冷え症+難産) × 五積散[漢方スッキリ方程式(23)]

No.4946 (2019年02月09日発行) P.14

岡村麻子 (つくばセントラル病院産婦人科部長 東邦大学薬学部客員講師)

登録日: 2019-02-08

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日本人の女性の半分以上は冷え症といわれている。冷えは月経異常や不妊症の原因にもなるほか,難産を含めた異常分娩にも関係する1)。最近は,食生活の乱れ,IT環境,運動不足,睡眠不足,疲労,ストレスに加えて高齢出産も増加しており,冷え症を合併する妊婦が増加する傾向がある。冷えを改善する五積散をはじめとする漢方薬が難産に役に立つ社会的背景である。

五積散は子宮頸管熟化に有効

五積散は気血痰寒食の五積を散らし,冷えに効く漢方薬である2)。「気血痰寒食を散らす」とは,元気を出させ,血を整え,痰(水)を除き,温めて,食欲を増すという意味である。やや虚弱なタイプに対して用い,生冷の飲食物の過剰摂取や冷房などの寒冷の環境によって生じる冷えに効果があるといわれており,胃腸炎,腰痛,神経痛,関節痛,月経痛,頭痛,冷え症,更年期障害,感冒などに使用するのが一般的である。

出典の『太平恵民和剤局方』には難産に使うとの記載があり,当院では,予定日が近づいても冷えがあり,分娩準備ができていない妊婦に使用している。体が温まるとともに,子宮頸管熟化(子宮口が開きやすく分娩の準備ができる)が促進され,緊急帝王切開率の減少や誘発分娩の成功につながっている3)4)

桂枝茯苓丸の併用も有効

桂枝茯苓丸は駆瘀血薬の代表として広く使用されている漢方薬である。上熱下寒型の冷えに有効で,体力中等度からそれ以上のタイプに使用する。一般的には,赤ら顔で下腹部に抵抗圧痛を認める,子宮付属器の炎症,月経不順,月経痛,腰痛,頭痛,めまい,のぼせ,冷え症,更年期障害,痔疾患などに使用する5)。構成生薬の桃仁は子宮収縮増強作用が報告されており6),流早産を引き起こす危険性があるため,妊婦には投与しないことが望ましいとされているが,分娩の場合はその作用こそ必要とされる。

当院では,破水後や微弱陣痛などで有効陣痛を期待する場合に使用している。五積散は桃仁,牡丹皮が含有されていないため子宮収縮増強作用が弱く,五積散内服後に桂枝茯苓丸を併用することも多い。

五積散や桂枝茯苓丸などの漢方薬は冷えを解消し,子宮や子宮頸部の微小循環を改善させることにより頸管熟化や陣痛発来のカスケードを動かし,分娩機転へ好影響を与えると考えられている7)。少子化対策において冷えない生活は必須である。より安全で豊かな分娩が増えることを望んでいる。

 

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