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担癌患者への予防接種の判断基準は?

No.4942 (2019年01月12日発行) P.63

山田充啓 (東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座呼吸器内科学分野院内講師)

登録日: 2019-01-12

最終更新日: 2020-10-09

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担癌患者への予防接種について。ある予防接種の手引きに「完全寛解までは接種を控えるが,必要性のある場合は免疫の機能を検査して時期を見て行う」とありました。免疫機能の種類,またその結果による接種可能条件についてご教示お願いします。

(長野県 T)


【回答】

【維持療法中の患者は免疫機能の回復を確認のうえ行うとされているが,絶対的指標はなく,個々の症例で判断することが必要である】

ご指摘のように,米国感染症学会による免疫不全者に対するワクチンガイドライン1)など,各国,各種のガイドラインでは,基本原則として,①化学療法,放射線治療など免疫を抑制する抗癌治療前のワクチン接種は,不活化ワクチンの場合は2週間以上前に,生ワクチンの場合は4週間以上前に行う,②化学療法中は,ワクチンに起因する感染症のリスクがあるため,生ワクチンの接種は原則禁忌,③不活化ワクチンについても,化学療法中は免疫不全のため十分な効果が期待できないことが予想され,推奨されない,施行した場合,防御抗体の測定が可能な場合はワクチンが有効か抗体価を確認すべきであり,場合によっては化学療法終了後,免疫が回復した場合に再接種を考慮する,④化学療法による完全寛解後,免疫機能が改善する時期を待つ必要があり,不活化ワクチンは3~6カ月後の接種,生ワクチンの場合は早くても6~12カ月後を目安として施行する,といった内容が推奨されており,原則化学療法中のワクチン接種は推奨されていません。

しかしながら,こちらもご指摘の通り,寛解導入療法後の維持療法の時期においては,必要性の高いワクチン(麻疹,水痘など)については,免疫機能をチェックし,回復していることが確認できた場合は接種を施行すると「予防接種ガイドライン」には記載されています2)

この免疫機能の回復の指標として,日本小児白血病リンパ腫研究グループ(Japanese Pediatric Leukemia/Lymphoma Study Group:JPLSG)による長期フォローアップガイドライン3)により,ワクチン接種基準が提案されており,①末梢血リンパ球のCD4/8比が1以上であること,ただし,CD4/8比が長期(1年程度)にわたり基準を満たさない例はCD4数500/μL以上で接種を考慮してもよい,②PHA(phytohemagglutinin)刺激によるリンパ球幼若化反応が正常化していること,③γ-グロブリン補充療法を行わずに,血清IgG値が年齢標準値を維持していること,等の指標が推奨されています。

一方,癌患者ではありませんが,「造血細胞移植ガイドライン」4)では免疫機能回復のバイオマーカーとして,同様にリンパ球数,CD4陽性細胞数,CD4/8比,免疫グロブリン値,T細胞機能を測定するPHAによるリンパ球幼若化検査が挙げられています。しかし,本ガイドラインでは,これらの指標は現時点では予防接種時の指標として提案可能な多数例での報告はないことから,具体的な数値の提示は控えています。よって,上記の免疫回復の指標も絶対的に信頼すべきものではないことに留意し,個々の症例に対して,リスク・ベネフィットを勘案して接種の是非を決定することが必要と考えられます。

【文献】

1) Rubin LG, et al:Clin Infect Dis. 2014;58(3): e44-100.

2) 予防接種ガイドライン等検討委員会:予防接種ガイドライン2018年度版. 予防接種リサーチセンター, 2018, p101.

3) JPLSG長期フォローアップ委員会長期フォローアップガイドライン作成ワーキンググループ, 編:小児がん治療後の長期フォローアップガイドライン. 医薬ジャーナル社, 2013, p313-4.

4) 日本造血細胞移植学会ガイドライン委員会, 編:造血細胞移植ガイドライン 予防接種 第3版. 日本造血細胞移植学会, 2018, p4.
[https://www.jshct.com/uploads/files/guideline/ 01_05_vaccination_ver03.pdf]

【回答者】

山田充啓 東北大学大学院医学系研究科内科病態学講座呼吸器内科学分野院内講師

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