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肝硬変と栄養療法 [今日から使える栄養療法の質を上げるケーススタディ(4)]

No.4790 (2016年02月13日発行) P.40

監修: 若林秀隆 (横浜市立大学附属 市民総合医療センター リハビリテーション科 診療講師)

小坂鎮太郎 (練馬光が丘病院総合診療科NST QIT(Quality Improvement Team))

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-27

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  • 【症例】 脂質異常症の既往があるADLの自立した68歳の男性,元警察官
    【現病歴】 ‌生来健康で,40歳代から健康診断でLDLコレステロール値が高いと指摘を受け,脂肪肝も指摘されていたが放置していた。退職までは剣道の教官としても運動していたが,50歳代からは体重が増加していた。2年ほど前から食欲が低下していたが,加齢に伴うものだと考えて本人も家族も気にしていなかった。1年ほど前から腹部の膨満感を自覚するようになり,その頃から階段昇降などの労作時の息切れ,下腿浮腫を認めるようになった。体重は2年前に84kgであったのが,来院時は72kgであった。食事は気づかっていない。数年前と比べて歩行速度には特に変化ないが,階段を上ると呼吸苦を認めるため外来を受診した。転倒歴はなく,肺炎球菌ワクチンは未接種である。
    【既往歴】 40歳頃に脂質異常症
    【内服薬】 なし
    【アレルギー】 なし
    【社会歴】 ‌元警察官,退職後に運動はしておらず,外出は買い物に行く程度,妻と母の3人暮らしで,息子が1人いて,少し離れたところに住んでいる。喫煙歴なし,飲酒は機会飲酒,ADL/IADLは自立,居住環境:マンションの5階,介護保険申請なし
    【身体所見】 ‌身長172cm,体重72kg,BMI 24,血圧112/74mmHg,脈拍78bpm・整,呼吸回数16回/分,SpO2 98%(室内気),体温35.4℃
    ‌頭頸部:眼瞼結膜は桃白色,眼球結膜は黄染なし,頸静脈怒張なし 胸部:呼吸音に左右差なし,cracklesなし 腹部:軽度の膨隆・軟,腸蠕動音は良好,波動を認める,肝は右肋骨弓から2横指触知して,Traube領域に打診で濁音を認め,脾腫を認める 心血管:心音は整,S1・2亢進なし,S3(−)・S4(−),心雑音は聴取しない 四肢:軽度の圧痕浮腫あり
    ‌握力:右28kg,左26kg 認知機能:長谷川式認知症スケールで30/30点,老年期うつ病評価尺度(GDS15)にて0/15点,興味の減退や希死念慮は認めなかった
    【検査所見】 ‌白血球6300/μL,リンパ球1220/μL,Hb 10.4g/dL,Plt 10×104/μL,PT-INR 1.7,TP 6.0g/dL,Alb 3.0g/dL,AST 110IU/L,ALT 100IU/L,T-bil 1.2mg/dL,Na 134mEq/L,K 3.6mEq/L,Cl 96mEq/L,Mg 2.0mEq/L,P 2.8mg/dL,BUN 18mg/dL,Cr 0.84mg/dL(eGFR 56mL/分/1.73m2),CRP 0.8mg/dL,TSH 1.4 μU/mL,HCV抗体陰性,HBs抗原,HBc抗体,HBs抗体のいずれも陰性 腹水:漏出性を支持する所見で白血球数上昇なし 腹部超音波:肝臓に腫瘤影は認めない,全体的に実質が高輝度で肝腎コントラスト陽性,腹水あり 上部消化管内視鏡:下部食道にF1,CW,RC(−)の静脈瘤をわずかに認めた

    今回のポイントは以下の3点である

    ・肝硬変のリスク因子を持つ患者の早期発見と診断・治療を行う。
    ・肝硬変の低栄養を早期発見して栄養療法の原則に則りアプローチする。
    ・肝硬変患者の健康寿命を上げるための診療の質の向上を実践する。

    それでは前掲の症例について①栄養療法の必要性のスクリーニングと5つの原則に従った初期評価,②治療方針とその内容,③必要栄養量・内容とその投与方法,④今後の栄養投与とリハビリテーション計画,そのほか必要なことを,多職種の目線で考えてみたい。

    残り4,612文字あります

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