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総論:栄養療法の進め方・考え方 [今日から使える栄養療法の質を上げるケーススタディ]

No.4786 (2016年01月16日発行) P.40

監修: 若林秀隆 (横浜市立大学附属 市民総合医療センター リハビリテーション科 診療講師)

小坂鎮太郎 (練馬光が丘病院総合診療科NST QIT(Quality Improvement Team))

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-30

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  • 【症例】 ‌2型糖尿病,高血圧,2年前に食道癌(Stage3)の既往がある53歳の男性銀行員
    【現病歴】‌ 6日前にアテローム性の右延髄梗塞にて入院し挿管管理となった。長期呼吸器管理が見込まれたため,入院4日目に気管切開を行い抜管となったが,食道癌術後の放射線療法の影響もあり,気管切開孔周囲の創傷治癒が悪い。ST(speech therapist)評価では経口摂取も困難な様子であるため,栄養療法の介入が必要と判断され,NST(nutrition support team)依頼となった。本人は頷いて意思の疎通をとることが可能である。
    【既往歴】 2年前より2型糖尿病,高血圧,食道癌術後補助化学療法・放射線療法
    【内服薬】 アスピリン80mg,エナラプリル10mg,メトホルミン1500mg
    【アレルギー】 なし
    【社会歴】 ‌妻と2人の大学生の息子,母の5人暮らし,喫煙歴なし,飲酒は20歳からビール500mL缶3本/日,脳梗塞発症前のADL/IADLは自立
    【身体所見】 身長172cm,体重72kg,BMI 24,血圧172/88mmHg,脈拍84bpm・整,呼吸回数16回/分,SpO2 98%(室内気),体温36.2℃
    頭頸部:眼瞼結膜は桃白色,眼球結膜は黄染なし,頸静脈怒張なし,頸部リンパ節腫脹なし 胸部:呼吸音に左右差なし,cracklesなし 胸部:心音は整,S1・2亢進なし,S3(−)・S4(−),心雑音なし 四肢:浮腫なし
    ‌神経学的所見:四肢の運動麻痺は著明,左の温痛覚は低下,入院後のADLは全介助
    【検査所見】 白血球7820/μL,Hb 14.5g/dL,Plt 24×104/μL,TP 7.6g/dL,Alb 4.0g/dL,AST 38IU/L,ALT 35IU/L, BUN 17.8mg/dL,Cr 1.2mg/dL,Na 137mEq/L,K 4.1mEq/L,Cl 103mEq/L,Mg 2.5mEq/L,P 4.7mg/dL,HbA1c 7.2%,CRP 0.6mg/dL

    1. 栄養療法の意義と原則

    日本人の平均寿命は世界で最も高く,OECDの調査結果1)から予防可能な死を世界でも高率に予防できている医療の水準が高い国であると自負している。一方で,高齢化社会に対応した年金や医療などの社会保障給付費が,この10年間ほぼ変化のない国民所得を逼迫している現状がある(図1)2)。また,入院および慢性疾患の通院患者には栄養不良が多くみられ,特に高齢者では5人に1人以上が低栄養で,合併症の発症率や死亡率が高くなっている3)。その結果,在院日数の延長により入院費用の増加をもたらすこととなる。
    入院時および通院時に栄養スクリーニングを行って栄養不良患者を識別し,適切な栄養療法を行うことで患者予後を変え,医療費を少なくすることが可能になる4)~6)
    栄養療法の目的は2つある。1つは低栄養の患者に十分な栄養管理を行うことにより,病気からの回復を支援し,手術などによる合併症予防に貢献することで入院期間を短縮させ,医療費の削減が期待できること,2つ目は,サルコペニアを含む様々な疾患リスクを抱えた患者に,早期の栄養スクリーニングおよび栄養療法を行うことで疾患の発症・進行を抑制し,患者QOLを向上させることである。本連載は,この2点を意識して栄養療法の質向上に多職種で取り組むための補助となるように執筆していく。毎回,テーマに合った症例をもとに多職種でのアプローチを考え,考察事項としてどのようなエビデンスがあるかを含めて後半で解説する形式をとる。第1回の総論のポイントは以下の3点である。
    ・栄養療法の意義を考える。
    ・低栄養の分類を理解して栄養スクリーニングを実践する。
    ・栄養療法の5原則について理解する。
    それでは前掲の症例について,①治療方針とその内容,②必要栄養量・内容とその投与方法,③今後の栄養投与とリハビリテーション計画,そのほか必要なことを,チームとしてどのようにアプローチするか,多職種の目線で考えてみたい。

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