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医業経営ツールボックス 開業編 Vol.11

◆Vol.11 「建て貸し」による開業

41歳の内科医です。戸建での開業を検討中ですが、今後の教育資金などを考えると自己資金に余裕があるとは言えません。
承継や医療ビレッジを幾つか見学しましたが、未だ納得できる物件に出会えません。「建て貸し」という選択肢も考えていますが、メリット・デメリットと留意点はどんなものでしょうか?

「建て貸し」とは、一般的には、土地オーナーが借主の希望を取り入れ建物を建築、それを賃貸する形態のことです。
クリニックの場合「レントクリニック」や「ドクターズレントハウス」などの表現を使用しているハウスメーカーなどもあります。

医療ビレッジ型の医療モールでは、この形態で運営されていることが多く見られます。
開業資金を抑え戸建開業をご希望の場合、選択肢としては有効かと思われます。
ただし、希望に近い戸建であること以外は、あくまでも賃貸物件です。内装・備品はドクターの負担になる場合がほとんどとお考えください。
「建て貸し」は希望の開業エリアに条件の合う物件が見つからない場合に、土地オーナーと交渉し建物の建築費をオーナー負担で建築し、ドクターは物件の借主として賃貸借契約を締結するものです。
土地代と建築費の負担なしのビルテナントに近い自己資金で戸建開業が可能になる、この点では大変魅力的な契約形態といえるでしょう。
しかし、土地オーナーとの交渉や賃貸借契約に関しては、その道に精通した信頼できるプロのアドバイスが必須となります。
大手ハウスメーカー・調剤薬局チェーン・開業コンサルタントなど各種医療関連業者が参入していますので、ホームページなどをご覧になり、業者ごとのシステムの特性を理解しておくことをお勧めします。

●「建て貸し」のメリット・デメリット(一部ご紹介)

◆メリット
・初期投資額が少額で戸建開業が可能
・ある程度の希望の広さ・建物をオーナ負担で建築
・専用駐車場スペース等、予め予定可能
・オーナーとの関係により地域への参入が容易ため、訪問診療などは進めやすい場合が多い

◆デメリット
・開業後数年での閉院は途中解約扱いとなるため負担金が高額(契約期間15年~20年が一般的)
・開業資金借り入れにおいては、担保として評価されない
・契約期間満了後の更新は確約されてはいない

上記の、メリット・デメリットのどちらもドクター次第ということに変わりはございません。
初期投資を抑え、戸建開業の希望を叶える手段に連動するリスクがデメリットとなると言えると考えます。

●「建て貸し」の場合の一般的な流れと確認事項

1.信頼できるプロを探す
 各業者のセミナーや個別相談会などに参加し、「建て貸し」システムに関しての説明が納得できる業者を選択しましょう。
 ◆確認したい点
 ・契約実績【可能であれば「建て貸し」による開業者の現地見学などはお薦め】
 ・オーナーとの交渉・契約についてのサポート内容詳細【何を・どこまで・どのように】
 ・サポート依頼にあたっての、付帯条件【依頼業者の専門により、条件が異なるため要チェック】
 ・専門業務プラス土地活用の知識は充分か

2.開業希望エリアを絞り、開業候補地選択を行う
 「建て貸し」可能な候補地情報から、絞込み

3.調剤薬局の有無または、誘致が可能か

4.独自の診療圏調査を行う
 業者の作成したもの以外に、独自の調査は必須

5.オーナーとの面談
 ・ご自身の希望を明確に提示できること
 ・オーナーとご自身の相性は重要
 ・オーナーとサポート業者との関係に不安はないか

6.各種契約条件の確認(例)
 ・契約についての期間、更新解除
 ・途中解約時の違約金条件
 ・退去時の借主の現状回復義務の範囲
 ・建築協力金の有無
 ・家賃と敷金・保証金
 ・保証金の償却条件
 ・オーナーと借主の修繕負担範囲
 ・竣工時期 など

7.契約締結

以上、「建て貸し」による開業を検討なさる場合のメリット・デメリット、契約までの留意点をご紹介しました。
この形態での開業の場合は、開業までの期間は長くなります。余裕を持って焦らず最良のパートナー(業者・オーナー)を見つけるために充分な時間をお使いいただくことをお勧めします。また、業者選択時には、各専門業者の特色を把握しご自身の求める業者を見極めることをお忘れなく。

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