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企業健診と健康保険の取り扱い

No.4729 (2014年12月13日発行) P.58

安西 愈 (弁護士)

登録日: 2014-12-13

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

企業健診を行うと異常値を示す人が多いが,たとえば企業健診の内視鏡検査で胃炎などの病名がついた場合,これを健康保険に切り替えることはできるか。また健診の一環であっても,病名のある場合は健康保険を使った検査が可能か。 (宮崎県 Y)

【A】

企業健診〔労働安全衛生法(以下,安衛法)第66条に基づく定期健診〕と,健康保険組合などによる保健事業としての人間ドックや生活習慣病などの疾病予防のために行う健康診断とは別のものである。企業健診は,事業者に法令上強制されている。それは,企業の労務管理上の健康管理に資する目的であり,健康保険組合などの行う,組合員である労働者の疾病予防の福利厚生事業とは,法的に異なるものである。
ただし,労働者が人間ドックなど健康保険組合などの行う,組合員である労働者の疾病予防のための健診を利用した場合,安衛法第66条第5項のただし書きに定める労働者が,「事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において,他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け,その結果を証明する書面を事業者に提出したときは,この限りでない」との規定に基づき,法定の検査項目を充足する健康保険に基づく診断結果を事業者に提出したときは,これをもって安衛法の法定健診に代えることはできる。
次に,企業健診の二次健診(法定の健診は第一次健診までで,精密検査などの二次健診は企業独自の福利厚生となる)において,ご質問にあるような内視鏡検査で胃炎などの病名がついた場合,これを健康保険による診療や療養の給付に代えられるかという点については,「健康診断は,療養の給付の対象として行つてはならない」(保険医療機関及び保険医療養担当規則第20条1号のハ)とされているので,健康診断として行ったものを健康保険に切り替え,給付を受けることはできない。
しかし,当該健診による診断の結果,保険医が特に治療を必要と認めた場合,その後の診察については,健康保険の療養の給付の対象となるとされている。さらに,精密検査と健康保険給付の扱いについては,たとえば,「保健所が成人病対策として市町村の要請により,心臓病又は癌の集団検診を行った結果,病状の疑いありとするものが,同日又は他日,自己の選定する医療機関(検診を行った医療機関を含む)で精密検査を受けた場合は,当該精密検査が集団検診の一環として予め計画され又は予定されていたものでないことが客観的に明らかである場合に,集団検診の結果,疾病又はその疑いがあると診断された患者について,治療方針を確立するなどのために精密検査を行う必要がある場合には,当該精密検査を保険給付として取り扱って差し支えない」(昭和39年3月18日保文発第176号)とされているので,二次健診の一環であっても,集団検診の場合のように客観的に健康診断として行われたものではなく,疾病の疑いもあるということで,個別的に治療の必要性,その内容や治療方針を確立する必要があるための精密検査であった場合には,健康保険法上の給付の対象となる保険事故としての疾病についての診療にあたり,健康保険の療養の給付とすることができる。
そこで,企業健診の結果,異常値が発見されて,それが疾病ないし疾病の疑いがあると診断される場合に,それ以上の精密検査が今後の治療に必要か否かや,その内容の確定上,必要な診断であるとされたときには,企業健診と切り離して,初めから当該精密検査自体を疾病の疑いによる治療方針の確立の必要性に基づくものとして受診するときには健康保険給付の対象となる。

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