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【識者の眼】「外来診療の質を高めるために」草場鉄周

No.5215 (2024年04月06日発行) P.60

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2024-03-22

最終更新日: 2024-03-22

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2024年度診療報酬改定について、厚生労働省から細かな算定要件や施設基準の情報が発出されてきている。その中でも、プライマリ・ケアに関連する大きな改定は「生活習慣病に係る疾病の管理」と「地域包括診療料等の見直し」、そして「患者の状態に応じた適切な訪問診療・往診等の推進」の3点であろう。もちろん、特定疾患療養管理料から生活習慣病が外されたこととは表裏の関係にある。

この改定が意味するところは、頻回受診で報酬を確保するのではなく、1回の外来・訪問診療の内容を充実させて単価を高めていくこと、そして、質の高さに見合った収入を保証する明確な方向性である。つまり、3分診療や薄利多売からの脱却である。さらに、今までは各種の検査によって単価を高めるのが日本の外来診療の大きな特徴だったが、生活習慣病管理料や地域包括診療料のように包括支払いの位置づけが徐々に拡大していることから、幅広い健康問題への対応、丁寧な説明、健康相談、ケアマネジャーとの連携など、出来高払いでは評価しづらかったアプローチへの報酬上の評価が相対的に上昇していると考えられる。そして、このアプローチはまさに今議論されている〈かかりつけ医機能〉に含まれる。

また、在宅医療についてはコロナ禍を通じてプライマリ・ケアと在宅医療の分離が進みかねない状況が危惧されたが、この改定で一定の歯止めがかかったと言ってよい。具体的には、定期訪問診療を提供している医療機関が実施する緊急往診や夜間・休日など時間外の往診について、外部の在宅専門医療機関にアウトソーシングする現象が都市部を中心に拡大していたが、その報酬が適切なレベルに減額された。やはり、診療の継続性の観点からはこうした分離の拡大は医療の質低下に直結するため、望ましい改定であった。

まとめると、今回の改定は、できる限り少ない検査や専門医療の利用を通じて患者の身体的、経済的負担を最小限にして幅広い健康問題に丁寧に対応すること、そして外来診療と在宅診療を連続性のある医療として推進することをめざしており、プライマリ・ケアの立場からは歓迎すべき内容である。

もちろん今までの報酬制度で最適化を達成していた医療機関では減収が予想されるのは事実であろう。ただ、この改定をきっかけにプライマリ・ケアを重視した診療体制に改革していくことを強くお勧めしたい。なぜなら、多疾患合併かつ複雑な病態をもつ高齢者医療に大きな資源を割かざるをえない日本の医療にとって、この方向性は遅かれ早かれ避けられない展開だからだ。ぜひ、「大切なものを変えないために、自ら変わらなければいけない」という金言を胸に一歩踏み出して欲しい。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療 

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