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【Special Column】益田裕介(早稲田メンタルクリニック院長)「医学部受験とメンタルヘルス」[日本医事新報特別付録 医学部進学ガイド「医学部への道2025」]

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登録日: 2024-02-16

最終更新日: 2024-02-08

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少子化の影響や、受験勉強のテクニックが洗練され、努力次第では昔よりも医学部に入りやすくなっていることは簡単に予想できます。また、親のサポートの有無によっても、その難易度は大きく変わるでしょう。

こうした風潮は、勉強すればなんとかなる分、本人および周囲の諦めがつきにくく受験戦争が加熱し、親や教師からの抑圧が増すため、受験生らのメンタルヘルスには当然良くないのですが、しかしこのような高みの見物の意見は、今悩んでいる受験生や家族には何も意味をなしません。なので、今回はより実践的で役立つ話をしたいと思います。

高校卒業時点で結果が出てしまう受験勉強は、大人の視点でみると、本人の頑張りは努力の範疇とは言えず、どちらかというと生まれ持った才能や環境に依存するものだと思います。うまくいかないからダメだとか、うまくいっているから優れている、というのではなく、たまたま不利・有利だっただけです。それは運の問題であって、彼らの価値や尊厳にはなんの意味もありません。メンタルヘルスを考えていく上で、親や子供たちが、受験や学歴競争に熱中しすぎることなく、きちんとその部分を理解しておくことが重要だと思います。一度冷静になり、その上で、もう一度騙されにいくぐらいが、ちょうど良いのかなと思います(冷静になりすぎると、こんな馬鹿げた努力はやりたくなくなってしまうので)。

医学部受験で有利な特性

ではどんな子供が有利で、どんな子供が不利なのでしょうか?

まずは負けず嫌いな子供です。勝負事が好きで、数字にこだわりを持てるタイプが有利です。競争が好きなタイプの方が有利なので、この点では男性の方が有利です。

机の前に何時間も座り続けられる子供は有利です。長時間考えたり、集中し続けることができる子供が有利であり、俗にいうバイタリティのあるタイプが有利です。運動経験がある方がその傾向は強いですが、運動すれば身につくものでもないので、そこはまだ医学的にもよく分かっていません。もし落ち着きがない子供であれば、ADHDなどを疑い、試験前に精神科を受診することをお勧めします。薬物療法によって改善することもありますし、場合によっては別室受験など試験でも合理的配慮を受けられることもあります。臨床をしていると、週5で働くなんてとても無理だというバイタリティが低い人もいれば、週7で働いても大丈夫というバイタリティの塊のような人もいます。これは個人差みたいなもので、甘えや頑張りではなく、生まれ持ったものなのだろうと思います。生理の有無は体調に影響を大きく与えるため、男性の方が有利だし、同じ女性でも生理の影響を受けにくい人の方が有利です。

自分の感情や生き方に関心が乏しく、モラトリアムの中にいない子供も有利です。心の探究は、10代にとっては特に魅力的な活動であり、人生においても重要な活動ですが、受験勉強においては不利に働きます。「なんで勉強をしているんだろう?」「自分は本当に医師になりたいのかな?」などと考えず、割り切って勉強できる子供の方が当然有利です。ただし、曖昧な動機で医師になることは個人的にはあまりお勧めしたくありません。人の生死に関わる責任の重い仕事ですし、責任を放棄して、儲け主義に走ることもあまり良いものとは思えないからです。

サポーティブな親を持つ子供は有利

親のサポートがある子供は有利です。どんなペースで、どんな教材をやるべきか? それらの戦略や計画を10代の子が1人で作るのは大変です。誰かと一緒に作り、管理してもらったほうが、脳の負荷や作業量は明らかに減らせます。叱責したり、自己責任だと子供を追い詰めるのではなく、メンタルヘルスに理解があり、感情に支配されず、サポーティブな親を持つことは、明らかに有利です。しかし、親はどこまで子供に時間とエネルギーを割くかにとても頭を悩ませるだろうと思います。親自身も自分の仕事などがあり、セルフケアが必要だからです。片親よりも2人親の方が、やはり子供に割けるエネルギーが多いので、その点も有利不利が分かれてしまいます。

とはいっても、子供は素直に親のサポートを甘受することはありません。10代の脳は特殊な状況の中にあり、親や社会に反発したくなったり、危ないことや刺激を求めたり、友情や恋愛に関心があります。勉強よりもSNSに夢中です。それは脳として当たり前のことであり、そういう特性が小さい脳の方が、大きい脳よりも有利なことは当然でしょう。独立心や反骨芯が強いタイプは、将来的な出世やメンタルヘルスの健康さには良い影響がありそうですが、こと受験勉強においては、親世代の援助をうまく利用した方が有利なため、不利に働きそうです。

このように、様々な要素から人間の心を考え、行動を予測し、改善を促していくのが精神医学です。子供の成績は親との関わり合いや、親自身のメンタルヘルスの状況にも強く左右されます。なので、親自身もセルフケアに関心を持ち、感情的にならず、子供のサポートをしてあげられると、良いかと思います。

子供たちは親への反発心を一旦置いて、勝負のためだと割り切り、協力して結果を出すことに専念しましょう。

また親の援助を受けられない子供たちは、友達に成績が負けても、悲観せず、自分を褒めてください。勉強以外の要素で、こんなにも影響を受けることが分かったら、今の自分を褒めてあげることができると思います。

皆さんが医師として、一緒に働ける日を待っています。無理せず頑張ってください。

益田裕介(ますだ ゆうすけ):防衛医大卒。防衛医大病院、自衛隊中央病院、自衛隊仙台病院(復職センター兼務)、埼玉県立精神神経医療センター、薫風会山田病院などを経て、早稲田メンタルクリニック院長。精神科医YouTuberとして情報発信するほか、オンライン自助会を主催。メンタル系YouTuberの会を主催するメンバーとしても活動。

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