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車椅子利用者送迎中の事故[先生、ご存知ですか(69)]

No.5196 (2023年11月25日発行) P.68

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2023-11-22

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高齢化

わが国では高齢化が進んでおり、2022年は65歳以上の高齢者が国民の29.1%を占めています。そして、この割合は2065年には38.4%にまで上昇すると推計されています。また、要介護あるいは要支援認定者数は年々増加していますが、これに伴って車椅子利用者も増えています。

車椅子利用者がデイサービスなどに参加する際に、車椅子ごと福祉車両に乗って移動しているのが日常的です。しかし近年、車椅子利用者を送迎中の福祉車両が事故に遭い、車椅子利用者が死亡する例が散見されます。

車椅子で乗車していた際に

車椅子利用者を乗せた車両が、時速約40kmで前方の車両と衝突しました。運転者は頸椎捻挫の軽傷を負いましたが、車椅子利用者は腹部内臓損傷で死亡しました。車椅子はしっかりと車両に固定されており、シートベルトも着用されていました。しかし、シートベルトによる拘束が十分でなく、腹部が圧迫されてしまいました。このように、車椅子利用者を載せた車両が事故に遭うことはしばしば報告されています。

車椅子の移送を担当している事業所を対象とした調査では、23%が過去1年間に事故の経験があると回答していました。スウェーデンで福祉移送サービスの利用者を対象に行われた調査によると、12%の人が何らかの事故に遭遇し、特にブレーキ中や加速中に多く発生していました。

わが国では、車椅子ごと車両に乗車した人が年間どのくらい事故に遭遇しているかのデータがありません。滋賀県では、最近の交通事故死者数が年間35~40人ですが、そのうち1~2人は車椅子のままで車両に乗車して交通事故に遭遇し、死亡していました。したがって、全国で相当数の車椅子利用者が乗車中の事故で死傷していると予想されます。

車椅子乗員の拘束方法

上記のような死亡事故例を調査したところ、車椅子乗員の固定が十分でないことが原因でした。そこで、実際の福祉車両において、シートベルト着用による拘束状況を調べてみました。

ある車両において、車椅子のまま乗車し、車両に装備されている肩ベルトと腰ベルトを別々に着用しました。すると、肩ベルトは正しい位置に装着できず、首にかかりました。そして腰ベルトについては、車椅子のひじ掛け下を通してなるべく腰付近を通すように工夫しましたが、体と密着しませんでした。そこで、車輪のスポークの間を通してなるべく体に近づけるようにしましたが、うまく密着しませんでした。

次に、別の福祉車両において、推奨される方法で3点式シートベルトを着用したところ、腰ベルトは腰部には接触しておらず、左右大腿部の上方を通過していました。

車椅子の状態で車両に乗車した際には、シートベルトが座席に座っているときのように正しくフィットしないことがわかりました。

問題解決に向けて

道路運送車両の保安基準では、車椅子は座席とみなされていません。したがって、車椅子ごと車両に乗車する人に対しては、シートベルト着用に関する具体的な安全基準がありません。車椅子利用者の移動は日常的ですが、車椅子利用者の体にフィットするよう、シートベルト装置を改良して頂きたいものです。

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