株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

医師 vs AI/研究者 vs AI/なかのとおる vs AI[なかのとおるの御隠居通信 其の16]

No.5183 (2023年08月26日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学名誉教授)

登録日: 2023-08-23

最終更新日: 2023-08-23

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

いつかそうなるだろうとはわかっていましたけれど、まさかこんなに早く実現するとは。そう、AIの利用です。いやぁほんまにどないなっていくんでしょう。

医師 vs AI 

AIにとってかわられる職業は多いが、医師はそうでもなかろうとされていた。でも、それって甘いんとちゃうかと思っていた。どこかに書いたことがあるのだけれど、優秀なAIとVR(仮想現実)を組み合わせたら患者さんとの対応も上手に代替できるはず、というのがその根拠だった。ただし、10年くらいはかかるだろうと、かなりの未来を想定していた。とんでもなく甘かった。

4月にNature誌に発表されたジェネラリスト医療用人工知能(Generalist Medical AI:GMAI)には腰を抜かした。画像、電子カルテ、検査結果、ゲノム、グラフなどのデータを取り込ませると、さまざまなデータベースにアクセスし、合理的な推論をしてくれる。そして、それを医師や患者が利用する。賢すぎやろ。

そんな時代、医師がなすべき仕事っていったい何なのだろう。AIの間違いをチェックするというのが考えられるが、それって、AIが賢くなるにつれてどんどん減っていきそうやし。「頭」では勝負にならないから「腕」ということになるのかもしれない。専門分化が進み、すでにそのような兆しがあるが、医師の「職人化」がより一層加速されていきそうだ。

そんな時代、膨大な知識を暗記することが要求される現状の医師国家試験などまったく意味を持つまい。と思っていたら、生成AIのひとつ、ご存じChatGPT-4が医師国家試験の合格ラインを超えたらしい。まぁ、そんなもんやろ。数年前ならともかく、今やそれぐらいでは驚きもしない。

現在の医学生たち、すなわちAI時代に仕事をするようになる「明日の医師」たちに、医学知識を片っ端から覚えさせることなど、どう考えても不合理だ。国家試験のために費やされる膨大な努力を考えると、早急に大改革すべきである。といっても、なかなか進まへんやろうなぁ。医学生たち、かわいそうすぎですわ。

研究者 vs AI 

AIが研究の方向性を示すようになるということも予想の範囲内だ。発表された全論文をサーチして、どういった研究をしたらうまくいくかを確率的に判断する。AIにとっては得意な作業である。もしかすると、人間には思いつけない研究すら提案してくる可能性がある。

料理はさまざまな食材を用いて作られるわけだが、どのような組み合わせがよいかは膨大な経験から知られている。そのデータをAIに放り込むと、突拍子もない食材を組み合わせたレシピを提案してきたりする。え~っあかんやろと思って作ってみたら美味しかった、という話がある。これと同じようなことが研究でもきっと起こる。

理化学研究所は、研究開発用の生成AIを開発するらしい。時代の流れである。いたしかたなし。しかし、AIが提案したテーマを「確認」するような研究がはたして面白いだろうか。私なら願い下げだ。かといって、AIと自分の発想のどちらが優れているかというと、かなりの確信を持ってAIのような気がしてしまうのがつらい。

とんでもない着想はAIからは生まれないかもしれない。しかし残念ながら、とんでもないアイデアが大きく発展することはきわめて稀でしかない。多くの研究者は、やむをえずAIの指南を仰ぐようにならざるをえないだろう。いやぁ、ええ時代に研究させてもらいましたわ。

なかのとおる vs AI

AIと闘うつもりなど毛頭ない。ただただ利用させていただくのみだ。といっても、たいしたことに使うわけではなく、英文和訳とか和文英訳である。

隠居したとはいえ、英語の論文を読む必要に迫られることがある。もちろん生業の一部だったのだから、読みはできる。しかし、母語の読解能力畏るべし。ChatGPT-4さまに和訳してもらって読むと速さが10倍くらいになる。楽ちんすぎるやないの。1回やってしもたら、もうやめられませんわ。

大学院生として指導した教え子の推薦状を英文で書く機会があった。当然のようにChatGPT-4さまに翻訳をお願いする。「正式な推薦状なので、格調高い英語に翻訳してください」とお願いしたら、驚くほど華麗な英文が返ってきた。

悲しいかな、いくら勉強しても絶対に書けるようにならないレベルである。自分で言うのも何だが、英語の学習には相当な時間と金をつぎ込んだ。あの努力は何やったんやと思うと泣けてきた。って、ちょっと大げさかもしらんけど。

いやぁ、ここまでくると、残念とかよりも清々しい気持ちになってきますな。しかし、生きてる間にこんな現実を目の当たりにするとはまったく予想してませんでしたわ。これから先どうなっていくんでしょう。最近は、見てみたいという気持ちよりもこわいという気持ちのほうが強いかも。

仲野 徹 Nakano Toru
大阪市旭区生まれ。1981年阪大卒。2022年4月より阪大名誉教授。趣味は読書、僻地旅行、義太夫語り。『仲野教授の笑う門には病なし!』(ミシマ社)大好評発売中!

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連求人情報

もっと見る

関連物件情報

もっと見る

page top