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ウソは書いてない /最初で最後(?)の孫との旅行/あわや暴動? と思いきや [なかのとおるの御隠居通信 其の13]

No.5170 (2023年05月27日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学名誉教授)

登録日: 2023-05-24

最終更新日: 2023-05-23

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「恩師である中井準之助先生が旧制一高の同窓会から戻り、『話題と言えば、病気と孫と勲章だよ』と『嚙んで吐き出すように』言われたことがある」と養老孟司先生が書いておられました。病気と勲章の話には縁がないのですが、今回は孫の話から。スンマセン、がまんして読んでやってください。

ウソは書いてない 

去年の今ごろ、神戸新聞夕刊の「随想」という欄に定年をめぐるエッセイを書かせてもらっていた。連載のうちの1回に、定年になってから孫(当時5歳、次女の長男)がやたらと遊びに誘うようになった、という話を書いた。タイトルはそれを受けて「もっと真剣に遊ばな…」であった。

その内容が、この3月末に、神戸新聞のコラム「正平調」で紹介された。朝刊一面のコラム、朝日新聞だと天声人語にあたる欄である。神戸在住の知り合いが連絡してくださったのだが、いつものことながら、書いたことすらすっかり忘れていた。まさか再度取り上げられるとは、それも実名入りでなどとは想像すらしなかった。あっちゃあ、あかんがな、これは……。

そのコラムのラストは「イクメンならぬ『イクジイ』が時代の潮流になればいい」と結ばれている。これを読めば、大阪大学名誉教授である仲野徹とかいう人は、さぞかし孫と一生懸命遊んでいるのであろうという印象を持たれるに違いない。しかし、それは現実と大きくかけ離れている。実際のところ、ほとんどと言っていいほど遊んでおらんのである。

この孫と2歳違いの妹は、すぐ近所、徒歩5分程のところに住んでいる。母親の仕事の都合があって、やたらと我が家にやってくる。しょっちゅう喧嘩をするし、うるさい。それに、注意をしても言うことを聞かないことが多い。いっしょに遊んでもすぐに飽きてしまう。孫が、ではなくて、こちらが、ではあるが。

そんななので、イクジイとはほど遠い。ただ、言い訳させてもらうと、「もっと真剣に遊ばな…」とは書いたが、孫としっかり遊んでいるなどとは一言も書いていない。だから、ウソを言うてはおらんのである。とはいうものの、ええかっこしてからにという冷ややかな視線が妻から浴びせかけられたのは無理からぬところですわな。

最初で最後(?)の孫との旅行 

だからという訳ではないが、孫といっしょに旅行をすることにした。ただし、近所に住まう2人ではなくて、長女の一人息子、3人いる孫のうち、最もおとなしくてお利口な4歳男子である。

石垣島へ3泊4日。天候に恵まれ、海水浴、サイクリング、カヌー、グラスボートなど、十分すぎるほど盛りだくさんに楽しめた。妻と長女との4人で行ったのだが、大きな2段ベッドのしつらえてある部屋での宿泊もとても面白かった。ならば、また行きたいだろうと思われるかもしれないが、微妙、どちらかというとNoである。

最大の理由は、子どもがいる旅行はじゃまくさいから。大人げないとはわかっているが、そう思うのだから仕方がない。当然のように子どものペースに合わせないといけないし、ずっと機嫌がいい訳でもない。そんなこんなで、少なくとも当分は行く気がしない。これでは「イクジイ」ならぬ「イヤジイ」だが、どうしようもありませんわ。

 

あわや暴動? と思いきや 

ぶつぶつと文句は言うてるものの4日間を楽しく過ごし、関西空港への朝一番の直行便で帰阪した。機材到着遅れで、出発が遅延したけれど、夕方からの用事に十分間に合うはずであった。ところが、関空に到着して、運命は暗転した。

無事着陸はしたものの、雷警報が出ているために、機内で待たされるはめになったのである。ボーディングブリッジ、ターミナルビルと飛行機の移動のための搭乗橋、があれば問題はなかったのだが、第二ターミナルはLCC専用なので、そのような高額な設備は存在しない。いたしかたなし。

雷警報が出されると、空港職員の安全のため一切の業務は停止され、お迎えのバスもやってこない。CAさんは本当に申し訳なさそうに、しばらくお待ちくださいと繰り返すばかり。ルールがそうなのだから仕方がない。とはいえ、機内は次第にささくれだった雰囲気になってくる。

30分以上たって解除され、バスが動き出したが、出発客を送り届けるばかりで、到着便への迎えは来ない。ますますいらだってくる機内。ようやくお迎えがやってきたのは着陸後1時間以上たってから、機材到着遅延を入れると1時間半ほどの遅れだ。

ようやくバスに乗ってターミナルビルへ。さて乗車時間はどれくらいだったでしょう? 目と鼻の先、なんと30秒もかからなかった。このとき思った。「なんで歩かせへんかったんや!」と、乗客達は暴動を起こすのではないかと。わくわく。ところが、ため息と脱力した呆れ笑いが広がっただけ。人間、怒りを通り越したら、悟りを開いたかのように笑えるっちゅうことですかね。ええ勉強させてもらいましたわ。

仲野 徹 Nakano Toru
大阪市旭区生まれ。1981年阪大卒。2022年4月より阪大名誉教授。趣味は読書、僻地旅行、義太夫語り。『仲野教授の笑う門には病なし!』(ミシマ社)大好評発売中!

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