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「高度先進地域医療」という考え方:近未来のハイブリッド地域医療[エッセイ]

No.5164 (2023年04月15日発行) P.66

長谷部直幸 (江別市立病院病院事業管理者(CEO)/ 旭川医科大学名誉教授)

登録日: 2023-04-16

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「高度先進地域医療」とは

かつて「高度先進医療」と「地域医療」は、相反する両極の概念のようにとらえられておりました。高度先進医療は都市部の特定機能を担う医療機関が展開する特別なものであり、地域医療にとっては縁遠く、まして「僻地医療」と呼ばれる場合には地理的経済的障壁も相まって、まったく無縁の医療ととらえざるをえない印象がありました。しかしAIとIoTの進歩は、今や先進医療こそ地域医療のためにある、と言うべき状況を生み出しています。

ここ数年、私は機会を頂くたびに、近未来の地域医療こそ「高度先進地域医療」をめざすべき、との考え方を提起してきました。それは決してDX全盛の波にのまれるAI偏重のマニュアル医療を指すものではありません。理想的な「高度先進地域医療」の姿とは、先進のデジタル要素と同時に究極のアナログ要素を併せ持つ近未来のハイブリッド医療と考えます(図1)。


あらかじめ申し上げれば「高度先進地域医療」は、文字どおり高度に先進的な地域医療を表す概念であり、単に制度的な「高度先進医療」や「先進医療自体」を地域に導入することを意味する用語ではありません。

地域医療にこそ高度先進医療を

先進のデジタル技術は、地域の医療現場の患者情報を瞬時に遠隔地点の医療者と共有し、時を移さず適切な医療を適用すると同時に、その展開をリアルタイムに制御することをも可能にします。地域の救急医療では既に不可欠の連携技術としてとらえられつつある要素です。

医師が不足する医療現場でこそ、デジタル技術が補完すべき領域は増えます。手技内容や技術の種類によっては、他職種の医療者のみならず、AIを担い手とするタスクシフトも積極的に導入されなければなりません。人的資源が十分ではない医療環境においてこそ、AIの学習能力や分析能力、デジタルの管理・統合・識別技術が、「医療の質と安全」を担保する上でも不可欠な要素となります。

究極的な遠隔医療の進歩は、文字どおり遠く離れた複数地点を結ぶ高度の遠隔操作による医療を可能にします。地方の医療機関の手術室・カテ室の患者の治療を、数百km離れた遠隔地の医師がモニター下に行うロボット手術や、カテーテル治療が日常のものとなる時代が来ています。地域医療の現場においてこそ高度な先進の医療技術が必要なのです。

忘れてはならないアナログの精神

先進のデジタル技術とともに不可欠なのが究極のアナログ要素です。完璧なAIが医療の世界を席巻すると言われる近未来にこそ、我々医療人に求められるのは「原点回帰」の姿勢であると思います。それは徹底的に人に寄り添うアナログの精神です。

地域医療に限らず、人に寄り添い、頭の天辺から足の先まで医療者の手で診てあげることこそが、「人間よりもAI」と言われる時代に求められる原点回帰の医療の姿と信じます。何より人の話を聞き、共感し、それで癒してあげられるのは、AIロボットより我々人間のほうが得意でありたいと願います。ともすれば、それが唯一の誇りともされた赤ひげ時代の地域医療のアナログの精神こそ、DX全盛時代の医療に決して忘れてはならない要素であると思います。

地域医療は「高度先進地域医療」をめざす

先進のデジタル要素と究極のアナログ要素を兼ね備えた「高度先進地域医療」こそが、我々のめざすべき近未来の地域医療の姿と考えます。「地域医療」という言葉に負のイメージを抱く若い医療者は少なくありません。広く「高度先進地域医療」の概念を用いることが、地域医療・僻地医療に携わる医療者の謂われ無きコンプレックスを払拭し、誇りを持って地域医療に従事する契機になれば、と願うものです。

さらに、社会的には地域と都市部の医療格差を是正するためのスローガンとして機能する用語でもあります。地域のデジタル環境を整え、先進性を追求することによって都市部との医療格差解消を図るものですが、加えてアナログ技術を究めその精神を研ぎ澄ますことによって、地域と都市部の医療格差はむしろ逆転することさえ期待できます。

地域の医療機関が「高度先進地域医療推進医療機関」としてのステータスをアピールすることで、地域の信頼をより確かなものとする、そうした未来を夢見ております。

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