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併存疾患のない中性脂肪低値を放置してもよいか?

No.5131 (2022年08月27日発行) P.53

荒川純子 (陸上自衛隊医官)

池脇克則 (防衛医科大学校医学教育部医学科教授)

登録日: 2022-08-29

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女性の患者で,特に“やせ”もなく,甲状腺疾患,肝硬変,吸収不良症候群,悪液質などの併存疾患が否定されるにもかかわらず,中性脂肪低値(50mg/dL未満)をみることがあります。健康診断受診者に多いように思うのですが,この症状を放置してもよいのでしょうか。また,これはダイエットによるものなのでしょうか。
発生機序についてもご教示下さい。(大阪府 W)


【回答】

 【過去の健診結果と比較して著しく数値が低くなっている場合は,問診で確認し,必要に応じて指導する】

中性脂肪は,健康診断では主にトリグリセリド(triglyceride:TG)値として評価されます。低脂血症の定義のうちTGの基準値は30mg/dL未満とされていますので,低脂血症ではなく,“低TG血症”として解説します1)。低TG血症のうち,無症状で安定した,軽度低下にとどまるものは,問題のないことがほとんどです。しかし,TG値が10mg/dL未満のような極端な例や,進行性のものに関しては,以下に示すような疾患が隠れている場合があります。

低TG血症をきたす原因疾患のうち一次的なものとしては,“無βリポ蛋白血症”が挙げられます。ミクロソームトリグリセリド転送蛋白(microsomal triglyceride transfer protein:MTP)の機能欠失変異により,カイロミクロンと超低比重リポ蛋白(very low density lipoprotein:VLDL)が合成されないことで,TG値が低下します。しかし,この疾患ではTGだけでなく,総コレステロール(total cholesterol:TC),低比重リポ蛋白コレステロール(low density lipoprotein cholesterol:LDL-C),高比重リポ蛋白コレステロール(high density lipoprotein cholesterol:HDL-C)も低値であり,特に前2者は著明低値を示します。また,この疾患は,乳児期より発育障害などをきたすことから,健康診断で特に既往や所見のない場合,可能性は低いと考えられます。

次に,これも稀ですが,リポ蛋白リパーゼ阻害活性を持つアンジオポエチン様蛋白質3(angiopoietin-like protein 3:ANGPTL3)の機能欠失変異でも,TGが低値となります。ANGPTL3は家族性複合型低脂血症(familial combined hypolipidemia)の原因遺伝子でもあり,その欠損は,低TG血症,低LDL-C血症,低HDL-C血症をきたしますが2),心血管リスクは低いと報告されており,治療介入は不要です。

二次性で低TG血症をきたす疾患としては,質問でご指摘頂いているように,甲状腺機能亢進症,肝障害,悪性腫瘍などが挙げられます。これらが否定された上で,過去の健康診断の結果と比較してTG値が低くなっている場合は,極端な糖質制限・脂質制限などの食事制限や,過度な運動の可能性もあるかもしれません。問診で確認の上,必要に応じて指導を考慮して下さい。

【文献】

1) 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド2013年版改訂版. 日本動脈硬化学会, 2017.

2) Musunuru K, et al:N Engl J Med. 2010;363 (23):2220-7.

【回答者】

荒川純子 陸上自衛隊医官

池脇克則 防衛医科大学校医学教育部医学科教授

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