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ホウ素中性子捕捉療法の効果増強法は?

No.4957 (2019年04月27日発行) P.60

井垣 浩 (国立がん研究センター中央病院放射線治療科病棟医長)

登録日: 2019-04-26

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ホウ素中性子捕捉療法(boron neutron cap-ture therapy:BNCT)について下記をご教示下さい。
腫瘍血管は正常血管に比べ,温熱に対して遅れて拡張するとのこと。温熱療法の次の日に腫瘍血管が拡張したタイミングで抗癌剤を投与し,腫瘍の中心部の低酸素部分を酸素化して濃度を高める方法が既に実施されているとも聞きます。
そこで,温熱療法の次の日にホウ素-10薬剤を投与するのはどうでしょうか。そうすれば腫瘍内は多少でも酸素化が改善されているでしょうし,また温度により腫瘍が傷つき,修復のため,また熱ショック蛋白発生により蛋白合成が亢進していると考えられるので,ホウ素薬剤であるパラボロノフェニルアラニン(p-boronophenylalanine:BPA)の細胞内取り込み率の向上にはつながらないでしょうか。

(兵庫県 S)


【回答】

【BPA取り込み能の低い腫瘍細胞に多く取り込ませることができれば,理論的には効果増強が可能】

BNCTは,ホウ素化合物であるBPAをがん細胞に十分量取り込ませた上で中性子照射を行うことで,熱中性子とホウ素の反応によって生じるアルファ線およびリチウム原子核からなる重荷電粒子線照射によってがん細胞を破壊する治療です。これらの重荷電粒子線の飛程は10μm以下と,細胞の直径とほぼ同等であるため,理論的にはすべてのがん細胞に十分量のBPAを取り込ませなければ十分な治療効果が得られません。

しかし,実際の腫瘍ではBPAの取り込み能が腫瘍内の部位によって異なっていることが18F標識したBPAを用いた18F-BPAポジトロン断層撮影(positron emission tomography:PET)によって示されており,腫瘍細胞間の生物学的不均一性や静止細胞の存在,局所的な低血流などがその主な原因として考えられています。

ただし,酸素化された細胞では低酸素細胞よりも放射線感受性が一般に高まるとされ,これを放射線生物学的には酸素効果と呼んでいますが,重荷電粒子線では酸素効果が小さいことも知られており,BNCTの際に腫瘍細胞を酸素化させることの意義は低いかもしれません。

いずれにしても,BPA取り込み能の低い腫瘍細胞に対して,ご質問の併用療法などの何らかの方法でBPAを多く取り込ませることができれば,BN CTの治療効果を上げることは可能かもしれません。実際,Masunagaら1)は,加温によってBNCT効果が高まったとの動物実験の結果を報告しています。ちなみに,彼らの実験では,腫瘍の加温は一般的な温熱療法よりも軽度であり,かつ中性子照射直前に行われています。また,温熱療法によって腫瘍血管損傷を生じる可能性も指摘されており2),加温の程度や中性子照射のタイミングなどの条件によっては,かえって効果が下がる可能性も否めません。

BNCTはこれまで,研究用原子炉という特殊な環境下で行われてきた治療であるため,治療症例数が少なく,腫瘍の状態や治療条件が必ずしも一定して行われてきたわけではありません。BNCTはその治療法自体もまだ標準化されていないと言わざるをえませんし,単独治療としての治療成績も十分には確立していません。さらには,理論的には期待されているものの,腫瘍組織のBPA取り込み能と治療成績との相関すら臨床的にはまだ十分には示されていません。現時点では,BNCT単独治療としての治療法の標準化とその成績や効果予測因子を明らかにする基礎研究と臨床研究が必要な段階であり,他治療の併用による効果増強法に関してはまだ基礎研究段階ということになります。

現在,病院設置可能な加速器型BNCT装置の開発が各国で進んでおり,わが国では既に治験が行われています。将来,BNCTが一般的な治療として確立した際には,質問者がお考えのような方法も含め,効果増強のための多様な研究が進むことが期待されます。

【文献】

1) Masunaga S, et al:Br J Radiol. 2012;85(1011): 249-58.

2) 西村恭昌, 他:日ハイパーサーミア会誌. 1995;11 (1):13-20.

【回答者】

井垣 浩 国立がん研究センター中央病院放射線治療科病棟医長

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